西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、開幕3連勝と好調の巨人・高木投手について一流投手になる素質があるとこういう。

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 巨人のルーキー右腕、高木勇人がおもしろい。本人がカットボールというスライダーの軌道の球は、球速や曲がり幅を変えられるし、シュートで内角を攻められる。フォークボールと軸になる変化は3種類。ただ、その一つひとつの精度が高い。

 左、右、落ちる球。基本的にこの3球種があれば、打者は抑えられる。一つひとつの球種の完成度が高ければ一流投手だ。これから経験を積んでいけば、素晴らしい投手になる素質を持っていると思う。

 近年の投手はすぐに新しい球種に手を出したがる。一つの球種を極める前に、だ。自信を持って投げられる球種が二つあれば、投球は組み立てられるものだ。ダルビッシュのように手先が器用で、右にも左にも斜めにも自在に曲げられる投手というのは、まれだ。しかも、球種すべてを1試合の中で自在に操れることなんて、ほぼない。その日の調子のいい球種を軸として組み立てる。新球を覚える際に、投球のバランスが崩れたり、本来の武器だった球種の曲がりが悪くなることだってある。

 一つひとつの球種に自信を持てていれば、たとえ打たれたとしても、原因と結果がわかりやすい。「コースが甘かった」「球種選択が間違っていた」などだ。自分の中でしっかりと消化することで、投球術の向上へとつながる。逆に、球種が五つも六つも中途半端にある投手を考えてほしい。「球種選択ミス」なのか「通用しない球種」だったのかも判然としない。「こうすれば抑えられる」という蓄積はできないよ。自分の投球に芯がないまま球種を増やすことは、投手の成長という点で弊害が多い。

 
 広島の黒田博樹は今、ツーシームでボールを内外角に動かせる。だが、彼はメジャー移籍する前までは速球、スライダー、シュート、フォークボールの投手だった。すべての球種が一級品。メジャーの舞台で、それだけでは通用しないと試行錯誤した上で球を動かすようになった。同じく40歳になった上原浩治を見てほしい。長年、速球とフォークボールだけ。そのフォークボールの変化にバリエーションを加え、メジャーを代表する守護神として君臨している。しっかりと段階を踏んできた投手の選手寿命は長いよな。

 その延長線で言えば、黒田の代名詞でもある左打者の内角の、ボールからストライクになる「フロントドア」と呼ばれるツーシームは、非常に危険な球だ。制球が狂えば真ん中にシュート回転して入って、打者の絶好球にもなる。完成度の高い黒田だからこそできる芸当。若い投手が一朝一夕で身につけられるものではないし、まねごとだけはしてはいけない。

 野球界に変化球が満ちあふれている。目移りするのもわかる。1軍で結果を残すために、2軍でくすぶる投手が、自分を変えるきっかけに新球……ということもあるよな。ただ、1軍で通用するようになった投手は自分の球種の精度を上げ、投球術に磨きをかけることを先に心がけてほしい。新球習得というのは、選手寿命にも影響を及ぼす重要な決断であるということをわかってもらいたい。

 30歳を超え、速球の球威が落ちてきたときに、投球術がなく、中途半端な球種ばかりを抱えた投手はどうなるか。ジリ貧になるのは目に見えている。

週刊朝日  2015年5月1日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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