「終活」の普及と共に広まったエンディングノート。民法の規定に沿って形式が厳密に決まっている遺言書とは違い、自分の思いなどを自由に書けることが魅力だ。ところが、実際にエンディングノートを書く人はまだまだ少ないという。大手葬儀会社・公益社をグループ企業に持つ燦(さん)ホールディングスの廣江輝夫経営企画部担当課長が指摘する。
「経済産業省が2012年に公表した『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた普及啓発に関する研究会報告書によると、エンディングノートの存在を約6割の人が認知していましたが、実際に作成経験がある人はわずか2%でした。人間の死亡率は100%とだれもが知っているのに、自分はその100%に当てはまらないと思ってしまう。これでは終活が後回しになり、万一のときには対策がとれない状況に陥ってしまいます」
その意味では、「死」を意識することが、終活、エンディングノートのスタート地点といってよいだろう。「死なんて考えたくない」と思う人もいるかもしれない。しかし、死の運命を認識するからこそ、自分がするべき大切なことが見えてくると廣江氏は示唆する。
「エンディングノートは書けないものだという安堵感を持ってほしい」と話すのは、日本葬祭アカデミー教務研究室代表の二村祐輔氏だ。
「書き込まなければとプレッシャーを感じる人がいますが、書けなくてもいいのです。エンディングノートの究極の目的は『覚悟』と『準備』をすること。この二つのキーワードに気付かせることがエンディングノートの最大の役割です」
エンディングノートを手に入れてみたものの、記入するのが難しいと感じる人には心強い言葉だ。
エンディングノートを実際に書き始める前に、「三つのステップ」が必要と二村氏はアドバイスする。
【ステップ1】
「書店などで手にとってみる」。エンディングノートを手にとることは、自分のことを考えなければいけないと思い始める第一歩となるからだ。
【ステップ2】
「パラパラとめくってみる」。これによって、各エンディングノートの特徴や内容をつかむことができる。また、多くのプロセスがあることを自覚することができるだろう。
【ステップ3】
「そのあたりに置いておく」。エンディングノートを入手したら、書く前に居間のテーブルの上など家族の目にとまる場所に置いておこう。配偶者や子どもら家族がそれを見たとき、どういう反応を示すかを見るためだ。
エンディングノートは遺言書でもなければ、自分の思いを書いただけの日記でもない。エンディングノートが機能する場面は多くの場合、自分が死んだ後と想定される。周囲の人に自分がエンディングノートを持っていると意識してもらうためにも、この“置いておく”作戦は効果的という。「家族でコンセンサスをまとめていく足掛かりになるでしょう」(二村氏)
以上の3ステップを踏まないで、いきなり書こうとしてもなかなか書けないと二村氏は語る。
「とくにステップ3はぜひ試してほしい。これ何?という質問が家族から出てきたら、自分の死後のことや葬式など普段避けている話題を切り出す絶好のチャンスです」
たとえば、どのような葬式で自分を見送ってほしいのかなど、書けそうなところから始めてみるとよいだろう。なお、注意したいのは、エンディングノートには、民法の規定に従って「最終意思の表示」をする遺言書のような法的な効力がないことだ。遺産相続など確実に執行したい場合は、遺言書の形にしておくことが肝要だ。
※週刊朝日 2015年1月2-9日号より抜粋