11月29日、フィギュアスケートGPシリーズのNHK杯(大阪・なみはやドーム)で、ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19)が4位となり、12月にスペインで行われるファイナルへの出場を決めた。
8日の中国杯で試合前の練習中に他選手と激突。出血した頭に包帯を巻きながらの悲壮な演技で2位となった。だが、その後の検査で左大腿挫傷など全治2~3週間のけがと診断され、NHK杯出場は絶望的という報道もあった。
それが急きょ、出場と発表されたのは試合初日の2日前。中国杯では脳震盪(しんとう)も疑われる中での滑走が論争を巻き起こしただけに、けがを押しての出場に会場はピリピリムードに包まれた。羽生には専属の警備員が付き従う厳戒態勢。試合前会見では「一人の選手に質問が集中しないようご配慮を」と、司会者が気をもむ場面もあった。
世の中を驚かせた“強行出場”だが、報道陣の間にはこんな声もあったという。フィギュア記者がこう語る。
「直前まで羽生の動静はわかりませんでしたが、記者の間では『彼なら絶対出る』という予測もありました。それくらい、勝ちにこだわる性格。王者の責任感から出場を決めたというよりは、戦いが好きということに尽きると思います」
無理をして故障が悪化することを危ぶむ声もあるが、横浜市スポーツ医科学センター長の青木治人氏は、
「太ももは筋肉の量が多く、回復が早い。打撲だけならば、初期に適切に治療をしていれば後遺症が残る可能性は低く、万全の状態でなくとも試合に出るという判断は不思議ではない」
だが、やはりけがの影響は侮れなかった。28日のSPの演技では、ジャンプで2度失敗するなど本調子ではなく5位。元五輪代表の渡部絵美氏が語る。
「着氷のときの足の踏ん張りがきいていなかった。けがの影響で筋肉が衰え、足が細くなっている印象を受けました。何とか滑れる程度には回復していても、まだ準備不足だったのでは」
フリーの演技でも4回転ジャンプで転倒するなど振るわず4位で、表彰台を逃した。「けがの影響じゃなくてこれが僕の実力」と悔しがったが、かろうじてファイナル進出を果たし、次につなげた。
「今回は対戦相手がそれほど強くなく、実績のある選手には構成点などが高く採点されがちな傾向もある。五輪王者の羽生は、『試合に出ればファイナル進出は確実』とみられていました」(前出のフィギュア記者)
本当の正念場は、これからのようだ。
※ 週刊朝日 2014年12月12日号より抜粋