今回、取材で新たにわかったのは、葉酸の認知症予防効果だ。
葉酸はビタミンB群の一種で、ほうれん草やアスパラガス、枝豆、海苔、緑茶などに多く含まれている。人間のDNAをつくるために必要な栄養素で、厚生労働省は妊娠期間での多めの摂取を推奨している。
女子栄養大学副学長・栄養科学研究所(埼玉県坂戸市)所長の香川靖雄氏は、認知症に対する葉酸の効果をこう解説する。
「アルツハイマー型認知症では、脳にタウやアミロイドβなどのタンパクが蓄積することがわかっています。葉酸にはアミロイドβの元となる遺伝子が現れるのを抑える働きや、脳の神経細胞や血管にダメージを与えるホモシステインという悪玉アミノ酸を減らす働きが認められています」
世界的な報告では、地中海食(果物、黄色野菜、穀物、豆類をとり、オリーブオイルを使用。魚を食べ、肉や卵は少量という地中海周辺地域の伝統食)が認知症予防に有効とされている。その鍵を握る栄養素が、DHAやEPA、そして葉酸だと香川氏は言う。
「スペインの地中海地域に住む人は黄色野菜をよく食べるため、食事でおよそ500(マイクログラム、以下同)の葉酸をとっているという報告があります。日本人の葉酸の推奨量(日本人の食事摂取基準)は240ですから、倍ぐらい違います」(香川氏)
葉酸が認知症予防に貢献することを示す、こんな研究もある。
一つは、2005年にアメリカから報告されたもので、高齢者321人を対象に、3年間にわたって葉酸の摂取量を調査。試験開始時と3年後に認知機能テストを実施したところ、葉酸の摂取量が339以下の人はテストの結果が低下したが、523以上の人はむしろ良くなっていた。
「葉酸は、アルツハイマー型認知症だけでなく、脳血管にも働くことから脳血管性の認知症も予防できる可能性がある。日本人はもっと葉酸をとるべきだと思います」(同)
香川氏によると、認知症予防で必要な葉酸の摂取量は400。推奨量よりも160ほど多い。これほど多くの葉酸を効率的にとる方法としてすすめているのが、緑茶を飲むことだ。
「例えば、葉酸が含まれる代表的な野菜にほうれん草があります。100グラムで200の葉酸が含まれていますが、葉酸は水溶性なので、ゆでると半分の量に減ってしまうのです。それに対し、緑茶は溶け出した湯を飲むわけですから、効率的。緑茶1杯約100ccで、150の葉酸がとれます」(同)
この際、いれたてを飲むのがポイントだ。日光に当たると葉酸は分解してしまうからだ。同じ理由でペットボトルの緑茶からは葉酸摂取はあまり期待できない。一方、玉露は日光に当てない茶葉なので、葉酸が多く含まれている。
高齢者はさらに多めに葉酸をとったほうがいいと、香川氏は言う。高齢者の多くは胃の粘膜が慢性的に炎症を起こす萎縮(いしゅく)性胃炎にかかっていることが多い。そのような状態では、食べものから葉酸を分離して体に取り込むために必要な酵素、ペプシンが分泌されにくいからだ。
「アメリカなど世界76カ国では、葉酸の穀物への添加が法律で定められており、日本でもそれにならった葉酸添加米などがつくられています。普段の食事だけで十分に葉酸をとれない場合は、こうしたものを利用するのもいいでしょう」(同)
※週刊朝日 2014年8月15日号より抜粋