安部首相が力を込める入試改革。左は鎌田座長 (c)朝日新聞社 @@写禁
安部首相が力を込める入試改革。左は鎌田座長 (c)朝日新聞社 @@写禁
この記事の写真をすべて見る

 安倍首相“肝いり”の教育再生実行会議が10月31日にまとめた大学入試改革の提言が波紋を呼んでいる。1990年から続いてきたセンター試験を廃止し、達成度テストや、「面接、ボランティア、部活動などの評価」に変えようというのだ。

 現在、大学入試では、面接や論文、内申だけで合格できる推薦入試やAO入試の増加が「大学生の学力低下を招いた」という反省から、学力試験を課す一般入試を重視する傾向になってきている。提言はその潮流と逆行する。桜美林大学教授で『論理的に考え、書く力』などの著書のある数学者・芳沢光雄氏はこう話す。

「35年間、大学教員をしてきましたが、最近、考える力と論理力の弱い学生が全国的に増えました。学力試験を課さない推薦入試やAO入試、センター試験など答えを塗るだけのマークシートによる試験のみで合格する学生が7割を超えたからです。結局、論述式の入試に改めないかぎり、暗記に頼って答えを当てる技術を身につけるだけで、自ら考え、論理的に書く能力を身につけるのは難しい。今度の入試改革案は、論述の意義を忘れています。学生の学力低下は必至です」

 毎年、数多くの東大合格者を出し、海外有名大への進学者も多い渋谷教育学園幕張高校の校長・田村哲夫氏はこう話す。

「達成度テストは国で実施すればいいでしょう。ただ、それをどのように利用するか、2次試験をどのように行うかは各大学にまかせるべき問題です。『ペーパーテストによる知識・学力を最重要視』と考える大学はそのようにやればいい。すべての大学を同じような仕組みの入試にしようとするから弊害が起きるのです」

 人物本位での入試形態については、教育再生実行会議の提言を受けての中央教育審議会の特別部会でも、「一回の面接で人物を判断できないことは、就職の面接を見てもわかる。かといって複数回行うとすれば、大学側にとって多大な負担になるので、果たして実行可能かどうか」と懐疑的な意見が出ていた。「人物」の判断は客観的なペーパーテストよりも主観が入りやすい。不合格だった受験生を「何が悪かったのか」と悩ませかねないという指摘も多い。

 面接を重視する企業の就職試験では、コネや外見による採用がよく問題視される。「人物で評価する」入試は、同様にコネ入学や裏口入学の温床にもなりやすい。面接重視が進めば、受験生は予備校で、面接の想定問答や面接に有利なメーク術などを熱心に学ぶようになるかもしれない。となれば学習時間も減るだろう。

「今でしょ!」のセリフで2013年の新語・流行語大賞を受賞した、東進ハイスクール講師の林修氏も、提言の改革案に反対だ。

「今回の改革で、本当に人物の能力を正しく測定できる試験が作れるのか疑問です。ペーパーテストの公平性を忘れてはいけないのではないでしょうか。例えば東大の2次試験は非常に記述量が多い問題です。そして、あれだけ書かせれば、その受験生の能力はわかるだろうなと納得させられます。実際、私が見てきたかぎり、本当に優秀な生徒は例外なく東大に合格しています」

 へたな改革をするぐらいなら、「今(の制度のほうがいい)でしょ!」というわけだ。

「今回の改革は結局、AO入試の失敗を繰り返すだけでは、と懸念する人がいても当然です」 (林氏)

週刊朝日 2013年12月20日号