「老いて一人」は、他人事ではない。配偶者がいても、いずれはどちらかが先に逝く。子どもがいてもあてにならないし、あてにしたくない。そう考え、“終(つい)の棲家(すみか)”を探す60~70代女性が最近、増えている。
今年3月、夫に先立たれた田中静子さん(仮名・78歳)は、自宅を売却してサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に住み替えた。
夫の定年を機に、30年暮らした横浜から田中さんの故郷・浜松に家を建て暮らし始めたが、2010年9月、夫ががんになり、76歳であっけなく逝った。
子どもはいなかった。このままひとりで浜松で暮らすか、東京に行くか。田中さんは迷った。
すると、東京の姪から連絡があり「叔母さんにぴったりの住まいがある」と。それが、現在暮らすサ高住、ゆいま~る中沢(東京都多摩市)だった。
「想像していた高齢者住宅とまったく違いました。気に入ったのは、キッチンがあること。自炊ができる。それと共同生活で人に合わせた時間帯で暮らすのは不安でしたが、ここなら生活のリズムを変えずに生活できるかなと」(田中さん)
田中さんが暮らすようなサ高住は、11年の法改正によって同年10月に生まれ、現在、新たな高齢者の住まいとして注目を浴びている。12年1月にはわずか8200戸だったのが、今年8月末までに12万2千戸を超え、急増しているのだ。
サ高住は、特別養護老人ホームやケアハウスなどの「施設」とは異なり、「住宅」になる。あくまで「住宅」なので、施設のように食事やお風呂の時間が決められているわけではない。プライベート空間を保った普通の集合住宅と変わらない暮らしができるという。その上、入居者は安否確認サービス、少なくとも日中に常駐するケア専門家による生活相談サービスを受けられるメリットもあるのだ。
「暮らして半年ですが、満足しています」(田中さん)
高齢者住宅情報センターを解説しているコミュニティネットワーク協会の理事長・近山恵子さんはこう解説する。
「最近は、『自分らしく最期まで暮らしたい』『親の介護が大変だったので、子どもには介護をさせたくない』という声が多くなりました。その流れの中で高齢者の住宅相談が増えました。きっかけは、病気やケガをするなどして、自分の老いを認めたときが多いです。あるいは連れ合いが亡くなられたケース。身内の介護経験がある人は、現実を知っているからか、早めに動く傾向にあります」
※週刊朝日 2013年9月27日号