齋藤陽道さん。LGBTや障がいのある人たちを多く撮った写真集「感動」で注目を浴びた(撮影/写真部・小山幸佑)
齋藤陽道さん。LGBTや障がいのある人たちを多く撮った写真集「感動」で注目を浴びた(撮影/写真部・小山幸佑)
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齋藤さんへの取材は筆談で行った。話し言葉と書き言葉では言葉の重さが違う(撮影/写真部・小山幸佑)
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長男・樹くんが産まれて初めて抱っこして「どんな声で泣いてるの?」と聞いた。(SPACE SHOWER FILMS)
長男・樹くんが産まれて初めて抱っこして「どんな声で泣いてるの?」と聞いた。(SPACE SHOWER FILMS)
七尾旅人さんが奏でるギターの音と振動を親子で感じて楽しむ。(SPACE SHOWER FILMS)
七尾旅人さんが奏でるギターの音と振動を親子で感じて楽しむ。(SPACE SHOWER FILMS)

“ろう”の写真家が、嫌いだった「うた」と出会うまでを記録したドキュメンタリー映画『うたのはじまり』(2月22日よりシアター・イメージフォーラムほか順次公開)がすばらしい。“うた”って何? 声を聞くって? 人との関わりって? 根源的なことをさまざま考えさせてくれる作品だ。

【写真】七尾旅人さんと齋藤さん親子

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 ろうの写真家は齋藤陽道(さいとう・はるみち)さん。2010年に第33回キャノン写真新世紀優秀賞を受賞し、11年に発表した写真集「感動」で広く注目を集めた。俳優・窪田正孝のフォトブックや、森山直太朗、Mr.Childrenらミュージシャンたちも多く撮り、エッセイや漫画を手掛け、障害者プロレス団体『ドッグレッグス』で“陽ノ道”のリングネームで活躍するレスラーでもある。

「うた」に出会うまでの物語は、教会で聖歌隊が美しいコーラスを響かせ、彼女らに向かって聞こえない齋藤さんが「声?どんな音?誰に向かって歌っているの?わからない」と何度も言う場面から始まる。飴屋法水さんが演出する公演「雪が降る。声が降る」に齋藤さんが14年、出演したときのものだ。

 そこで齋藤さんに初めて出会った監督の河合宏樹さんは大いなる魅力を感じ、追い始める。まだ“うた”というテーマはおぼろげだった。

 そして、場面は次に、齋藤さんの妻で、同じく写真家の盛山麻奈美さんの出産という劇的なシーンに変わる。河合さんはここから“映画”にできる、と思ったそうだ。

「齋藤さんと出会ったのは公演のときで、本格的に撮影をしたいと衝動になったのは、出産の撮影をしていたときに齋藤さんから『この子は泣いたの? どんな声で泣いてるの?』と産声について聞かれたのに答えられなくて、自問自答したことからです。最終的には齋藤さんが子どもを思って言った『自分の喜びに忠実であって欲しい』という言葉が聞けたときに、映画にできるなと確信しました」(河合宏樹さん)

 赤ちゃんは産まれた時にどんな声で泣くのか? それを、ろうの人に伝えるのは言われてみれば確かに難しい。日常、私たちは当たり前に声を発し、声を聞き、理解した気持ちになっているが、果たして本当に理解しているのだろうか? 聞こえることに満足し、分かったつもりになってるだけじゃないのか?と、言われて改めて考える。

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