櫻井:僕からみると、そういう人は何が面白くて写真を撮っているのかと思ってしまう。車両の美しさや洗練さを理解しようとせず、何でもいいから撮れればいいという感じで、本当に魅力のない写真を撮っている。僕はプロなので、撮っている姿や角度を見れば出来上がりはだいたいわかりますから。構図や画角などをアドバイスしてあげたいくらいです(笑)。でも、そういう人はすごくかたくなに「ここから撮るんだ」と譲らない。「そこは線路の側溝で危険だからやめてください」と言っても聞かないで居座り続けて、捕まった人もいました。レールの真ん中にビデオカメラを入れて通過する列車を真下から撮ろうとしている人もいましたね。その時は、周りの人と一緒に「危ないから絶対にやめるべきだ」と注意したら、舌打ちしながら去っていきましたが。
鳥塚:鉄道マニアは物質が相手だから、コミュニケーションを取れない人が入り込む余地が大きいのかもしれないですね。スポーツファンやアイドルファンは皆で応援して楽しもうという意識が生まれやすいけど、撮り鉄は「対鉄道」という世界に没頭して、周りが見えなくなるのかもしれない。
櫻井:鉄道には視野を狭くさせる、魔物のようなものが潜んでいることは事実だと思います。飛行機マニアや船マニアとは明らかに違う気がします。たとえば、飛行機はいくら頑張っても手が届かないし、滑走路への立ち入りもまず不可能です。鉄道はその距離が近いので、「もっと頑張って近寄れば、もっと迫力のある写真が撮れるはず」という意識になりやすく、周りが見えなくなる人が出てくるのかもしれません。
鳥塚:その話を突き詰めると、輸送事業者側の責任として「何でそこに柵を設けなかったのか」という話にもなるのでとても難しい。いくら線路内立ち入り禁止と書いてあっても「線路との間に柵があれば俺だって入らなかった」という人はいますからね。だから、JRなど大都市近郊の路線はすべて線路脇に柵を設置しています。列車密度、輸送密度が高いこともあるけれど、それができるのはお金があるからですよ。正直、われわれには無理です。
櫻井:でも、ドイツでは時速300キロで走る高速新幹線でもほとんど柵はありません。その気になれば線路の横断もできるけど、事故があったという話は聞きません。
鳥塚:だだっ広い麦畑のようなところを走っていきますからね。