世間から厳しい目を向けられている一部の撮り鉄のマナー違反行為。業を煮やした鉄道会社の中には、撮り鉄の「排除」に乗り出した企業もある。はたして、鉄道会社と撮り鉄は「共存」できるのか。現役の鉄道会社社長と鉄道写真家が本音をぶつけ合い、解決策を探った。
撮り鉄を「アホ」と批判したブログの真意
――鉄道ファンのマナー問題はSLブームが起こった1970年代から社会問題化しています。それから40年以上たっていますが、マナーは向上しているのでしょうか。
鳥塚亮:昭和40年代にSLの有名撮影地だった布原信号場(JR西日本・伯備線)だって、殴り合いのけんかになるくらいひどかったですからね。マナーというのは、その時代の基準で変化します。今は殴り合いはしないかもしれないけれど、やはり有名スポットなどに押し寄せる人の数が増えるほど、振る舞いがおかしい人は一定数生まれてしまう。でも9割以上はまともな鉄道ファンです。そういう人たちが「マナーの悪い撮り鉄」として同じように扱われるのは違うと思います。私たち鉄道会社にとって、わざわざ写真を撮りに来てくれる人たちは、自社の「ファン」だと考えています。アイドルグループのファンでもマナーの悪い人はいますよね。でも、事務所はそういう人たちを「教育」してコンサート会場などで安全を確保している。われわれもそうした努力はしていかなければいけないと思っています。
櫻井寛:私はプロの撮り鉄なので、マナーの悪い鉄道ファンには迷惑をしています。自分が撮りたいところでまともに写真が撮れないわけですから。昔から一部の人のマナーはひどかったわけですが、まだあの頃のほうが、撮る側同士でコミュニケーションが取れていたような気がします。何が何でもその場所をどかないとか、注意するとすごい剣幕でキレ始める人というのは、SLブームの頃はほとんどいなかったように記憶しています。
――2018年1月、当時いすみ鉄道社長だった鳥塚さんはブログで、マナーの悪い鉄道ファンに対して「阿呆連中」「言葉が通じない」などと痛烈に批判しました。その内容に賛否両論まき起こり、いわゆる「炎上」状態となりました。こうした発信をした真意は何だったのでしょうか。
鳥塚:ほとんどの撮り鉄は鉄道が好きで、いい写真を撮りたいと思っているだけのはずです。それが一部のマナー違反者のために、撮影現場で罵声が飛び交ってしまう状態になってしまっていたことに強い危機感がありました。人気のレトロ列車「キハ52」は毎週運行しており、「さよなら列車」のように最後の撮影になるわけではない。その日撮れなかったら、翌週に来てもいいんです。それなのに、現場がずっと荒れ続けているのは鉄道会社の社長として絶対に改善しなければいけないと思って、あのブログを書きました。一番迷惑だったのは菜の花の咲く時期に来る「素人」です。線路の中に入ったり、菜の花を踏みつけたり、マナー違反を平気でする。年配の人が多くて、線路を平気で渡れた時代や汽車が扉を開けっぱなしで走っていたのを知っているから、「何が悪いの」という感じなんです。そういう人たちには強い言葉で言わないとわからない。鉄道写真を撮りたい人たちは年々増えているので、分母が大きくなるほど、どうしても変な人がまぎれこんでしまいます。