AERA 2023年2月20日号より
AERA 2023年2月20日号より

 復帰して3カ月たった頃、職場でパソコンに向かっていると、ふと涙がこぼれそうになった。

 きょうは出産予定日なのに、私、なんで普通に働いているんだろう──。考えがうまくまとまらなくなり、仕事もはかどらない。その晩、布団の中で、本当に赤ちゃんとお別れしたんだという現実を突きつけられ、涙があふれてきた。

 こうした心身の反応は、死別などの喪失体験後に生じる反応(グリーフ)としてよく起きるものだが、当時はこうした知識もなく、「頑張れないのは自分が怠けているからじゃないか」と自分を責めるばかりだった。

 働きながら死産を経験した人の情報を探したが、見つからない。そこで、SNSで「#働く天使ママ」というハッシュタグをつけて発信を始めた。

■仕事まで失うわけには

 SNSでつながった会社員の藤川なおさん(39)は、妊娠18週で死産した後、8週間の産休中に心と体を整えて万全の状態で復職したいと思ったが、死産後の復職に関する情報はなく、焦りと不安が深まったという。

「赤ちゃんを失って、これでもし仕事にうまく戻れなかったりしたら、私には何も残らなくなってしまう。そんな焦りもありました」(藤川さん)

 気持ちの落ち込みが、赤ちゃんを失った人の正常な反応なのか、それとも心の病気なのか。相談する場所もない。結果、病院への受診が遅れ、うつ病が悪化。休職を長引かせることになってしまったという。

「当時、グリーフやメンタルヘルスに関する知識や情報を知っていれば、うつ病も防げたかもしれない、という思いもありました」(同)

■16%が産休を取得せず

 2人は、21年に流産・死産を経験した働く女性の自助グループ「iKizuku(イキヅク)」を設立。当事者や企業に向けた情報発信も始めた。同年12月に実施したアンケートでは、死産経験者のうち法定休業である産後休業を取得しなかった人は約16%にものぼった。死産の場合、薬で陣痛を起こし、まだ閉じている子宮口を医療機器で無理に広げて産むため、母体は出産と同様に大きなダメージを受ける。これに加えて、赤ちゃんを失った精神的なダメージを受けるも、回復する間もなく仕事復帰せざるを得ない人たちもいる実態が浮き彫りになった。藤川さんは言う。

「産後休業は母体を回復させるための期間として、法律で(事業主は)働かせてはいけない期間とされていますが、死産の場合にも適用されると社会的に認知されていないため、休みもなく復帰を求められ、復帰できずに退職を選ぶ人や、働き方を変えざるを得ない人もいます」

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