なぜ、口裂け女の噂はここまで広まったのだろうか(写真:gettyimages)
なぜ、口裂け女の噂はここまで広まったのだろうか(写真:gettyimages)
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「口裂け女」は整形手術の失敗により生まれた妖怪だと言われている (c)朝日新聞社
「口裂け女」は整形手術の失敗により生まれた妖怪だと言われている (c)朝日新聞社
オカルト研究家の山口敏太郎氏
オカルト研究家の山口敏太郎氏

 夏といえば何を連想するだろうか。海?花火?お祭り?バーベキュー?音楽フェス? 考えるだけでワクワクする楽しい催しがたくさん思い浮かぶ。しかし、このうだるような暑さに最もぴったりなものといえば「怪談」ではないだろうか。AERA dot.では「真夏の都市伝説シリーズ」と題して、オカルト研究家の山口敏太郎氏に身の毛もよだつ怖い話を綴ってもらった。第一回目は、かつて社会現象を巻き起こした「口裂け女」だ。

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 2019年7月20日、岐阜県柳ヶ瀬商店街において山口敏太郎プロデュースの「柳ヶ瀬お化け屋敷・恐怖の細道」が開幕した。今年で5回目となるこのお化け屋敷は、出てくる妖怪がすべて「口裂け女」であり、歩くコースは昭和の街並みを再現している。かつて中高年が子供の頃に経験した昭和の妖怪「口裂け女」の恐怖心を追体験できる仕組みとなっているのだ。 

 民俗学では、1978年岐阜県において「口裂け女」の噂は発生したと言われており、1979年、岐阜日日新聞により報道され県内で大きな問題となった。マスクをつけた女性が子供に向かって「あたし、きれい?」と問いかける。子供が怯えながら「きれいです」と答えると、マスクをとって耳元まで裂けた口を見せながら「これでも?」と叫びながら襲いかかると言われた。中には凶暴な「口裂け女」もおり、手に持ったハサミを使って子供の口を切り裂くとも噂された。 当時、子供であった筆者もこの妖怪談に戦慄を覚えた。

「口裂け女」は整形手術の失敗により生まれた妖怪だと言われ、それを気の毒に思った姉妹も自らの口を裂き「口裂け三姉妹」が生まれたとされている。「口裂け女」はロングヘアーの美女であり、スポーツカーを乗り回し、おしゃれなコートに身を包み、100メートルを3秒で走るとされたその身体能力も恐怖の要因だった。

 当然、「口裂け女」への対策案も伝播しており、「ポマードポマード」と唱えると「口裂け女」が悲鳴をあげて逃げ出し命が助かると言われた。なぜポマードという呪文が有効なのか。それは「口裂け女」が生まれる原因となった整形手術を執刀した医者がポマードをつけていたからだという。妖怪と言えどもトラウマ的な記憶には、精神的なダメージがあるのであろうか?

 この「口裂け女」の噂は、岐阜県から愛知県、京都府に伝わり、瞬く間に日本中に拡散した。情報伝達ルートは修学旅行で他校の生徒と接触することにより情報が共有されたり、盆や正月に祖父母宅で他県の従兄弟と接触することにより拡散した経路も指摘されている。

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