個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は「故郷のありがたさ」について。
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いま、地方局製作のドラマを撮影しております。僕の故郷、愛知県の中京テレビ(日本テレビ系列)、その開局50周年記念のドラマです。不肖わたくしが主演で、監督は同じく愛知県出身の堤幸彦さん。愛知県の小牧工業高校マーチングバンド部の実話を基にした作品です。
旧知の仲である中京テレビのプロデューサー氏は、名前を出すのは控えますが池田京平という人ですが、以前から「なんとしてもドラマを作りたいんです」と言っていました。地方局の実情にあまり明るくない僕が多くを語るのは避けますが 、どうやら地方局がドラマを作る機会はあまり多くはないようです。
「人前が苦手で、不器用で目立たず、教室の片隅にしか居場所がないような生徒に焦点を当てた作品をつくりたいんです」。自身もいじめにあった経験を持つ池田京平は、一緒に呑む時によく言っていました。
僕自身は、故郷の愛知県を離れて、32年。がむしゃらに駆け抜け、必死にやってきた32年でした。そして気づけば、一番長い年月を過ごした場所が東京になっています。自分でこしらえた家族の居場所も東京。息子が生まれ、育つ場所も東京です。
ただ、最近よく思います。「故郷がある」ということはとてつもなくありがたいことだ、と。もちろん故郷の場所は東京でも地方でも構いません。とにかく時には故郷を顧みて、僕にできる範囲で、恩を返したい。僕のような小者が故郷に何の恩返しができるかは分かりませんが、最近そんなことを考えるようになりました。
そして言わずもがなですが、地方がどんどん元気になり、盛り上がっていくことは、ムチャンコ大事なことだと思います。なのに、今まで僕は、自分が役者として生き抜く(←これは今も、これからも、考えなければいけないことですが)、その活動場所である東京ばかりを見ていたような気がします。そんな僕ですが、50歳になり、最近ふと、故郷のことを考えるようになりました。