うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格。ベストセラー『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』の著者・杉山奈津子さんが、今や5歳児母。日々子育てに奮闘する中で見えてきた“なっちゃん流教育論”をお届けします。
この連載が本になりました。タイトルは『東大ママのラク&サボでも「できる子」になる育児法』です。杉山さん自身が心理カウンセラーとして学んできた学術的根拠も交えつつ語る「私の育児論」を、ぜひご覧ください。
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私は、中学3年生の頃から今に至るまで、ずっと双極性障害(躁うつ病)を患っています。今は薬でアップダウンをコントロールできるようになりましたが、それでもまだずっと飲んでいます。
ちなみに薬を飲み始めたのは大学に通い始めてから。さらに、長期間のうつ病になったこともありました。双極性でいうアップがない、ずっと気分が落ち込んでいる状態です。たとえば大学を卒業した後は、就職するのもやめて、1年間ずっと家で休んでいたほどでした。
そんな私が聞かれるのは、「うつで妊娠しても大丈夫だった?」ということです。
■妊婦のときに向精神薬を飲むと赤ちゃんに影響があるの?
最も気になるのは、向精神薬が赤ちゃんに影響があるかどうか、でしょう。まず、私は「リーマス」という気分安定薬を飲んでいましたが、それは「催奇形性の疑いがある」、つまり妊娠中に飲んでいると子どもが奇形になる可能性があるものでした。ですから、「子どもをつくろうか」と決めたときから、催奇形性のない気分安定薬に変えてもらい、そちらを飲んでいました。
妊婦のときに薬を飲むと、へその緒から子どもに成分がいってしまいます。特に、胎児が内臓などの器官をつくる時期に、害があるものが入ってしまうと、奇形のリスクが高くなると言われています。
時期としては、脳や心臓、手足などの最重要器官が妊娠4週間から7週ごろ、その後、いろいろな臓器や外見がつくられるまでが、妊娠8週から15週ごろです。この期間は、特に薬に気をつけようと言われる時期です。
ただ、その時期って、ちょうどつわりがひどい時期と重なるんですね……。知人はつわりに加え、風邪でせきが一晩じゅう止まらない悲惨な状態になりましたが、病院と相談して「薬は飲まないようにしよう」となり、本当に苦しそうでした。
私も、つわりがひどくて入院したのですが、やはり吐き気止めを飲むわけにもいかず、脱水をふせぐ点滴をされ、当然気持ち悪さも治まらないままひたすら寝ていました。
持病がある人にとって大切なのは、病院選びだと思います。特にうつに関してだけ考えれば、大病院できちんと薬剤部と、できたら精神科がある場所で産むほうが安心でしょう。(私はいろいろと条件を考えた上で、最終的に、相談できる先生がいる個人病院で産むことに決めましたが)。
つわりで入院したときは大きめの病院だったのですが、私がうつの薬を飲んでいたということで、病室まで薬剤部の人が親身になって話を聞きにきてくれて、とても気がラクになりました。それにNICU(新生児集中治療室)もあるので、子どもに万が一のことがあったときも、普通の病院より早急に対処できるのは大きなメリットです。
■比較的安定していた「うつ」、誤算は「つわり」
ちなみに私のうつは、妊娠する前には比較的安定していました。誤算は、なぜかつわりが妊娠してから産むまで10カ月も続くという、かなりきついケースだったことです。人工的なにおいが全てダメでせっけんの香料でも吐き気がして、常に車に酔った状態が続くので気持ち悪くて外にも出られず、検診以外で外に出られたのは、10カ月のうちたった3日間くらいだったと記憶しています。
はっきりいって、地獄のような日々でした。気持ち悪くてパソコンもテレビもほとんど見られず、本も読めませんでした。仕事をしようとして、電車に乗って気持ち悪くなり、そのまま電車を乗りなおして帰ったこともあります。何もできないので、つわり以外のことに集中して、気を紛らわすことができないのです。
何度も時計を見ては「やっと1時間が過ぎた」と、ただとにかく時間がたつのをひたすら待つのみ。また、さらにそこに妊娠糖尿病の問題も絡んできました。朝にほんの少しだけ甘いロールパンをかじることだけが、一日の楽しみでした。そんな状態が何カ月も続いたわけですから、いざ産む前の9カ月あたりで、さすがに「もう限界」と、ストレスが爆発してしまったのです。
そこで、病院と安定剤に関して相談することになりました。
運がよかったのは、出産予定だった個人病院の担当の先生が、昨年までたまたま大病院で勤めていたおかげで、妊娠時の薬に関してかなり詳しかったということ。そちらではわりと多くの人が薬をつかっていたようで、「これらの薬なら、飲んでも影響がないことがほぼわかっている」という紙をコピーしてくれました。
妊娠した頃、見学にいった別の個人病院では、向精神薬に関しては「9カ月になったらやめてもらう」という方針だったので、そっちにしなくて本当によかった、と思っています。
ほぼ全ての薬の添付文書には、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」と書かれています。妊婦を相手に、胎児に問題がでるかどうかの実験なんて倫理的にできるわけがないのですから、製薬会社としてもそう書く必要性があるのは理解できます。
ただ、製薬会社がわからないのに、妊婦側が「これは危険性を上回る」なんて判断できるわけがないのもまた当たり前のことでしょう。
でも、有名なサリドマイドや、私が最初に飲んでいたリーマスのように、既に催奇形性の疑いがある薬は、他の薬とまた違う位置にカテゴライズしてもよいのではないかと思います。私が9カ月の頃に飲んでいた安定剤や睡眠薬では、特に催奇形性があるとも言われてはいないもので、器官などが既にできあがっている後期は、うつである妊婦さんがよく飲んでいるというものでした。
担当の医師いわく「自分が処方していた限り、今まで問題が起きたことがない」とのこと。ただ、精神系の薬は、大人でも頭がぼんやりするのと同じように、子どもも「スリーピングベイビー」と呼ばれる状態で生まれてきてしまう可能性があるのです。
■薬剤師からの励ましが、大きな心の支え
スリーピングベイビーとは、赤ちゃんが眠ったままの状態で出てきてしまうものです。その際、自発的に呼吸ができないので、人工呼吸器をつけることになります。もちろん赤ちゃんが苦しい目にあうのは親として避けたいものでしょう。
しかし、つわりで入院したときの大病院の薬剤師が、「スリーピングベイビーは人工呼吸器をつければ息ができるし、リズムだって生まれてから徐々に整ってくるから、実はほぼ問題ないのよ」「それより、お母さんが産む気がなくなってしまうとか、その後育てる元気がなくなってしまうほうが、よほど赤ちゃんのためにならない」と励ましてくれて、それは大きな心の支えになりました。
さらにその薬剤師は「みんな赤ちゃん、赤ちゃんってばかりいうけど、赤ちゃんを育てる母体がちゃんとしているほうが大切なの。お母さんの健康は、赤ちゃんに直結するの。だから、つらかったら向精神薬を我慢しなくていいのよ」と言ってくれたのです。
そもそも、器官形成の時期にたばこやアルコールをやめずに元気な赤ちゃんを産む親もいます。薬やカフェインを徹底的に避けていても、先天性異常がある子を産む親もいます。実は、薬の影響より、自然に起こる奇形の発生率のほうが高いとも言われているのです。だからこそ、器官形成時に注意すれば、「決して薬を飲まない」という選択をとらなくてもよいのではないか、と思います。
私が通っていた個人病院にも「スリーピングベイビー」が生まれてきたときにすぐ対応できる器具はそろっていて、何も準備がない病院よりもずっと安心して産めました。臨月である10カ月には「あと少しだから」と、飲まなくてよい日は飲まないように頑張り、飲むとしても最小限の量にはしていました。
まあ、たまたま1錠飲んだ日にちょうど破水がきてしまったのですが……。結果として子どもは全く眠ることなく、本当に元気に生まれてきてくれました。5歳になった今も、元気すぎて困るほどです。脳にも問題ありません。親バカなので、逆に、「天才なのでは」と思うことがしょっちゅうです。
まとめますと、うつで妊娠したいと思っている方は、まず自分が飲んでいる薬に催奇性があるかどうかを調べることが重要かと思います。そして産婦人科は、(里帰りも考慮して)できれば精神科と薬剤部があり、相談にのってくれるところを。さらに、スリーピングベイビーに対応している病院なら、先生と相談して、極限まで無理して薬を我慢する必要はないのでは、と思います。