加えて、非英語圏の選手には、言葉の壁も存在する。クリーブランド・インディアンスのカルロス・カラスコは、2年前に発表した手記のなかで、ベネズエラから渡米した当初の夕食は90日続けてドミノ・ピザだったと書いている。生まれて初めてピザを食べ、とても気に入ったという話ではない。当時のカラスコは英語がまったく話せず、唯一注文できるものを食べ続けた。どうやら、これはラテン系選手の「あるある」らしい。カラスコの手記が出る数年前にも、ファストフード店で毎日同じセットメニューを注文した選手の記事を読んだことがある。また、なかには、サラリーの半分を母国の家族に仕送りする選手もいる。

 カラスコは手記のタイトルを「アメリカン・ドリーム」としている。英語圏の選手を含め、ほとんどのマイナーリーガーにとっては、まさにそのとおりだ。夢を叶えるまでの道のりは、フィールドのみならずフィールド外においても険しい。カラスコのように、メジャーリーグで活躍できる選手はほんの一握り。大多数はメジャーデビューすらできず、マイナーリーガーのままユニフォームを脱ぐ。(文・宇根夏樹)

●プロフィール
宇根夏樹
1968年三重県生まれ。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライターとして、『スラッガー』などに執筆している。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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