入れ歯に関することに限ると、早い時点で医療者側に病状を説明しておくことで適切な治療が受けられることが多くあります。その観点も含めて、適正な歯科診療を受けるためには、ケアマネージャーや介護者(家族、介護職員、看護師など)の協力が不可欠であるといえます。

 歯科医院では、入れ歯の清掃をした後に義歯洗浄剤や水に漬けておくことを推奨しています。入れ歯を外してそのままにしておくと、乾燥して水分が蒸発し収縮します。この収縮と膨張を繰り返すと、入れ歯の表面に微細なひび割れが生じてしまうからです。

 また、入れ歯には多くの凹凸があり、丁寧に清掃しないと有害な微生物が繁殖する温床となります。入れ歯の清掃は義歯用ブラシによる機械的清掃が主であり、義歯洗浄剤による化学的清掃との併用が推奨されます。さらに、歯科診療を受けることが困難な場合、入れ歯の不良に対する自助努力として、義歯安定材を使用することもありますが、これらの不適切な使用により口腔環境が悪化してしまうケースも多々あります。

 今まで入れ歯の管理をご自身で行っていた高齢の認知症患者さんの口臭が、数カ月前から急にひどくなったという事例もよく聞きます。歯科医師が診た結果、歯茎に強い炎症が認められ、そのせいで口臭がひどくなるだけではなく、食欲も低下していたといいます。その後、入れ歯の管理指導と調整を行ったことによって、口臭の問題はもちろん、全身的な健康状態も大きく改善したとのことです。

 このように、誤嚥性肺炎の原因にもなりうる入れ歯の汚れをコントロールするためには、ご本人のみならず、ケアマネージャーや介護者(家族、介護職員、看護師など)にも入れ歯の管理の重要性をご理解いただき、入れ歯使用者の状況に応じた補助を行っていただくなどの協力が不可欠であるといえます。

■入れ歯を手放す時期の判断は?

 入れ歯が不要になるのはどのような状態かと考えると、「入れておくこと自体が障害になった時」だといえると思います。では、脳梗塞で重度な運動機能障害に見舞われ咀嚼が不可能となった場合や、経管栄養で口からものを摂取しない場合はどうでしょうか。

次のページ
入れておくことが障害になるなら入れない