体験会の参加者は水谷平から長さ345メートルの白岩トンネルを抜け、日本最大の砂防ダム・白岩砂防堰堤に向かう。トンネルは水谷~白岩間に敷かれていた専用軌道の廃線跡にあたり、一部にレールも残されている。しかしトンネル内は真っ暗で、案内員の懐中電灯だけが頼り。立山砂防工事専用軌道はもともと、白岩砂防堰堤建設工事用の資材運搬を主目的として計画されたものだった。
トンネルを抜けたところに「天涯(てんがい)の湯」と刻まれた石碑と足湯、男女別の露天風呂が設けられている。1600メートル先の多枝原平(だしわらだいら)から75度の源泉を引いていて、このあたりで適温の42度ほどに冷めるのだという。残念ながら体験学習会の参加者は、足湯にしか浸れない。
立山砂防工事の“本領”は、白岩砂防堰堤にある。内務省(現・国交省など)の技師・赤木正雄の設計で10年の工期をかけ、1934年に完成した高さ63メートルの本堰堤と、下流に連なる7基の副堰堤を合わせた全体の高さは108メートルある。
赤木の方針は、カルデラ内で唯一強固な岩盤が露出しているこの地点に、巨大な重力式コンクリートダムを築いて大量の土砂を堆積させる。それによって湯川の河床を安定させたのちに、上流部の泥谷・多枝原平などカルデラ内の拠点に、砂防ダム群を順次建設していこうというものだった。
白岩砂防堰堤本体と副堰堤群がつくる光景は、まるで巨大な滝のようだ。立山カルデラでは1969年8月11日、大土石流が発生した。土砂の崩壊量は湯川流域だけで約300万立方メートルに及んだという。しかし、白岩堰堤はこれを受け止め、下流の被害は最小限に留められた。白岩堰堤は2009年、砂防施設としては初めて、国の重要文化財に指定されている。(文・武田元秀)