体験学習会の集合場所・立山カルデラ砂防博物館のテーマは「知られざるもうひとつの立山への招待」という。多彩な展示を見れば、観光客やハイカーで常ににぎわう室堂平(むろどうだいら)の直下で、大規模な工事が日々地道に続けられていることがよくわかる。専用軌道で1965年から20年近く使われた、酒井製作所製の5トンディーゼル機関車も保存・展示されている。
■標高476メートルからトロッコ列車で1116メートルへ
立山砂防工事事務所の裏手にあるトロッコ列車の起点・千寿ケ原の構内は広く、多くの線路が敷かれている。「剱岳(つるぎだけ)」のヘッドマークと「体験学習会」の表示が付いたディーゼル機関車が、3両の人車(客車)を従えて待機する。3人掛けのベンチシートが3列、1両あたりの定員は9人で、20人の参加者にガイドと国交省の案内員が加わる。カモシカなどが描かれた“駅名標”に、千寿ケ原の標高は476メートルとある。18キロ先の水谷の標高は1116メートル、中間には中小屋・桑谷・鬼ケ城・樺平(かんばだいら)と、4カ所の「連絡所」(停留場)が設けられている。所要時間は約1時間45分で、トロッコ列車の平均時速は約10キロになる。
トロッコ列車は千寿ケ原を発車するとすぐ左にカーブを切り、石垣に突き当たる。立山と美女平を結ぶ立山ケーブルカーの路盤で、そこから列車は4段連続の千寿スイッチバックを行ったり来たりしながら、急な斜面を上っていく。上り切ったあたりからは、千寿ケ原連絡所の構内と常願寺川の流れがよく見渡せる。川全体を遮る大きな堰堤(えんてい)は津之浦下流砂防ダム、続いて空谷(からたに)砂防ダムが現れる。軌道は川の右岸(上流から見て右側)に敷かれているため、車窓は進行方向右手が風景に恵まれ、左手はほとんどの区間で崖沿いの法面(のりめん)が迫り、視界は利かない。
「場所により河川の状態が異なるので、砂防ダムの形状も一つひとつ違います」
ガイドがそう説明する。空谷トンネルに続くワサビ谷トンネルは、いまでは唯一素掘りのまま。ごつごつした岩の断面が目の前に迫ってくる。トンネルのそばの資材置き場は、線路際から谷側に張り出して作られている。直下は100メートル近い断崖絶壁だが、線路以外に平坦地はない。列車通過時の作業員の待機スペースも同様の形だ。列車が通り過ぎるのを待ちかねるように、作業員は線路に戻って整備にかかる。