代わりに自営業の直樹さん(31)が家事を9割担う。久美子さんは第3子を出産予定だ。
直樹さんはもともと大手企業の営業職だった。成績も良く、年収1千万円も夢ではないと思われていた矢先、過労が原因で病気になり、退職。
結婚を約束していた久美子さんは、無職になった直樹さんとの結婚に反対した父親を、「女が養うからいいんだよ!」と押し切った。
長女が生まれた後、直樹さんは両親の事務所の一角を借りて、子育て世帯向けの不動産を開業した。次女のときは保育園の入園を考え、産後3カ月で復職することになった久美子さんと家庭を支えた。
残業もある久美子さんは、直樹さんが子どもたちを寝かしつけた後に、そっと帰宅し、作ってあるご飯をチンすることも。
時短勤務で、急いで帰る同僚を見ると、「こんなに仕事に専念させてもらって、楽させてもらっている」と感じるという。
直樹さんの不動産事業はまだ軌道には乗っていないが、「またお世話になります」と直樹さん。久美子さんは「こちらこそ」と返し、ほほ笑み合う。
「うまくいくコツは、『女のくせに家庭を顧みない』『男のくせに稼がない』という昭和的な価値観を捨てることです」
男性の育児参加をすすめるNPO法人「ファザーリングジャパン」の林田香織さんは、妻が育休中に家事や育児の役割を主で担ったことで、夫が稼いでくるという意識が強くなると話す。
中長期的にこの状態が続くと、妻が復職したときに家庭が成り立たなくなったり、夫が働けなくなったときに家計が成り立たなくなったり、というリスクを抱えることになると指摘する。
「教育費などの支出も増えており、『男性大黒柱モデル』は成り立たなくなっています」
大切なのは、夫婦で「将来どういう家庭にしたいか」と話し合うことだと語る林田さん。互いの気持ちの「見える化」すると、納得しながら話し合うきっかけにもなるという。(文/朝日新聞記者・松川希実)