そのぶんイフタールをめいっぱい楽しむのだ。夜になるとあちこちでイフタールが開かれ、無料の食事が供される。互いの家に招待しあって、いつもより豪華で賑やかな食卓をともにする。
そんな習慣は日本で暮らすイスラム教徒も同様だ。いま日本各地のイスラムコミュニティーでイフタールが行われているが、とりわけ東京ジャーミイは華やぐ。たくさんの来訪者のために、トルコから来たシェフが日替わりで400食を提供する。イスラム文化に興味を持つ日本人も歓迎してくれる(事前にホームページから予約)。イスラム教徒にとっては特別な1カ月であるのだが、どうして断食をするのだろうか。東京ジャーミイの広報で、自らもイスラム教徒である下山茂さんが言う。
「日本人は単に厳しい戒律と思っているかもしれませんが、実はさまざまな意味が込められているのです」
下山さんが説明してくれたラマダンの意味は大きく次の三つがあるという。
(1)欲望を抑えることを学ぶ1カ月
近代以降の資本主義は消費を果てしなく迫ってくるが、少し立ち止まってみる。1カ月だけ飲食を制限し、性欲も抑えて、欲を小さくしてみるのだ。我慢と忍耐を覚えて欲望をうまくコントロールするように努めることも人間には必要ではあるまいか。
(2)食に感謝する1カ月
断食のあとは、まず渇いた喉を一杯の水で潤す。そのおいしいこと。そしてデーツ(ナツメヤシ)を噛みしめる。その甘いこと。きっと、味わうことそのものに感謝をする。食へのありがたさを再認識させてくれるのだ。
断食を通して食事や命の尊さを知る。これはイスラム教だけでなく、キリスト教やユダヤ教や仏教にもある考え方だ。
(3)心身をリセットする1カ月
「日本の12月に近いでしょうか」と下山さんは言う。一年を振り返り、大掃除をして、新年を迎える準備をする日本の年末。ラマダンのときの断食も同様なのだ。食事を制限して胃腸を休ませる。できるだけ心穏やかに努め、イフタールを通して家族や友人を大切にして、気持ちも新たにする。断食は結果として心身の健康につながるのだ。