■酢を定期的に飲むことは健康にいいのか?

 酢酸は乳酸を分解するので疲労回復によい、という意見もある。酢を定期的に飲むことを健康法にしている人もいる。しかし、ぼくが調べた限り、それを実証した臨床研究は見つけられなかった。もっとも、逆に酢が健康に悪いというデータもないようだ。

 ぼくは毎朝、お酢のドリンクを飲んでいたことがある。まあ健康のためというよりも「おいしいから」という理由からだ。今は毎朝のジョギングのあとで、お茶を飲んだり、果物を食べることが多い。水分補給が最大の目的だ。

 米酢の場合は日本酒の作り方にかなり似ているように思う。米(でんぷん)の糖化には麹菌たるAspergillus oryzaeが用いられ、エタノールを生成する酵母にはSaccharomyces cerevisiaeが用いられている。醸造用アルコールを酢酸菌で酢にする手法もあるようだ。個人的には醸造用アルコールから作った食酢よりも米から作った米酢のほうが、味がまろやかでおいしいような印象を持っている。

 が、よい酒造りとよい酢造りが同じといってよいか、確認するデータが必要だと前述の多山氏は述べている。製造工程が味を保証するかどうかは、確認してみないとわからない、ということだ。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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