もちろん、酒造りを目的としている限り、酢ができてしまうのは「失敗」を意味する。しかし、意図的に食酢を作るぶんにはもちろん成功といえよう。
酢はアルコールが酢酸菌で酢酸発酵されたものだ。主原料を基準に分類されている。米酢のような穀物酢、ワインビネガー、リンゴ酢のような果実酢などがある。いずれにしても、主成分が酢酸なのが共通項だ。寿司酢、酢の物、ポン酢じょうゆなど使用のバリエーションは多い。
一方、レモンやカボスといった、発酵を利用せずに果物の酸をそのままふりかける食べ方もポピュラーだ。この場合は「酢」とは呼ばないだろうが。なお、「黒酢」は米(玄米)が原料でも麦が原料でもよい。基準化された原料を使って褐色になったものを黒酢とするのだそうだ(製造工程は関係ない)。
酢の存在は、静菌・殺菌作用という効能があり、食中毒予防に酢は長く用いられてきた。酢酸菌も乳酸菌同様総称で、Acetobacter aceti, A. pasteurianusなどがこれに当たる。Acetobacter属は細菌学の開祖の一人、ルイ・パスツールが発見したのだとか。pasteurianusという名にそのなごりが認められる。
多山賢二氏の「食酢と微生物」(モダンメディア62巻3号2016)によると、食酢の健康上の作用としてはグルコース吸収遅延や骨形成促進、アデノシン生成による血管拡張作用などがあるそうで、消化促進、胃潰瘍予防、骨粗鬆症予防、糖尿病予防、高血圧予防、脂質異常症(俗にいう高コレステロール)予防、肥満予防が「期待できる効果」とされている。
ただし、これらを実証した臨床試験はほとんどない。酢が炭水化物を取ったときの血糖の上がり方を緩やかにするという研究はある。しかし、それが糖尿病の治療や予防に役に立つほどではないだろう、と考えられている(Johnston CS, Gaas CA. MedGenMed. 2006 May 30;8(2):61)。