下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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朝のボゴール・パレダン駅。道を挟んだ向かいには、首都圏電車の終着駅ボゴール駅がある
朝のボゴール・パレダン駅。道を挟んだ向かいには、首都圏電車の終着駅ボゴール駅がある

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。最終回となる今回は、インドネシアのボゴール・パレダン駅から。

【朝のボゴール・パレダン駅はこちら】

*  *  *

 しばらく前、東南アジアの全鉄道を乗りつぶすという酔狂な企画で、インドネシアの鉄道に乗りまくっていた時期があった。

 その企画も終盤。最後に残った未乗車路線が、ボゴール・パレダンからスカブミ、さらにチアンジュールまでだった。

 この路線の歴史は古い。ジャカルタとバンドンを結ぶインドネシアの幹線だった。しかしチアンジュールとバンドンの間のトンネルが2001年に崩落。以来、この区間は復旧していない。つまり、ジャカルタからチアンジュールまでの行き止まり路線なのだ。

 調べると朝の7時50分発の列車に乗ると、夕方にはボゴールに戻ることがでる。日帰りができるのは、この1本だけだった。

 始発駅である、ジャカルタ近郊のボゴールからなら、簡単に乗ることができると思っていた。半年ほど前だったろうか。この路線に乗ろうした。すると、駅員からこういわれた。

「今日は満席です。日曜日ですから。家族連れでいっぱいになるんです。平日なら問題ないんですが」

 インドネシアの列車は全席予約制だった。満席になると乗ることはできない。

 ジャカルタは巨大都市である。首都圏の人口は、2030年には東京首都圏人口を抜くといわれる。そしてこの街はいま、高度経済成長のただなかにいた。将来、日本のGDPを抜くといわれる国のエネルギーがいちばん沸騰している都市である。そんなジャカルタ市民が、家族と一緒に休日に遊びにいく。そのときに使うのがこの列車のようだった。

 それから約2カ月後、再びボゴール・パレダン駅に出向いた。今度は週末を避けた。万が一を考えて、インドネシアの休日も調べた。列車に乗る前夜に駅に行き、通りかかった女性の職員に訊いてみた。

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