また、僕がやっているインタビュー連載の取材で話を聞いた時のことも思い出される。
2014年10月16日、京都市内のホテルの喫茶室。各界の著名人に人生の恩人について尋ねる連載で、ジョン・レノン、オノ・ヨーコ夫妻の名前を挙げて思い出話を語っていたが、取材開始から10分ほど経ったあたりで、予期せぬ事態が起こった。
たまたま、喫茶室の横を旧知のミュージシャンが通りかかり、裕也さんと顔を合わせた。裕也さんがミュージシャンを呼び止め、近況報告が始まった。そこからはジョン・レノン夫妻の話は完全にストップし、そのミュージシャンとの思い出話や共通の知人についての話をノンストップで展開し、こっちは完全に蚊帳の外となった。
正直な話、次の取材の時間もあったため、取材予定時間の30分を大幅に過ぎると差し障りが出てきてしまう。その空気を察知して、取材の担当者が「裕也さん、先に取材を…」と切り出したが「オレは、今コイツとしゃべってんだよ!」と一喝。誰もそこで「いやいや…」と口を挟めない迫力を身をもって体感した。
机の下でこっそりと携帯メールを打ち、次の取材先に遅れてしまう旨を伝えていると、たまたまそこに僕とも顔見知りの芸人さんが通りかかった。「中西さんもだいぶ待ちくたびれてますから(笑)」と笑いを織り交ぜながら裕也さんに進言し、予定時刻を大幅にオーバーしたものの最後まで話を聞くことはできた。
かなり精神的には疲弊した取材だったが、帰り際、裕也さんがこちらを向いて「(長引かせて)悪かったな」と一言声をかけてきた。短い言葉ながら、全てを包み込むような声のトーン。そして、言葉とともに向けられた、何ともチャーミングな笑顔。自分でも驚いたが、先ほどまでのバタついた心が、一気に整った。むしろ、清々しい気持ちにすらなった。この力が、多くの人を魅了した裕也さんの幹になっていたものなのか。一瞬のやり取りながら、それを痛感した。