問答無用のロックンローラー・内田裕也さんが旅立った。
内田さんを取材する機会には何度も恵まれたが、最後の機会となったのは昨年10月14日。京都国際映画祭の中で裕也さんを追ったドキュメンタリー作品「転がる魂・内田裕也 ザ・ノンフィクション」の上映会だった。
約1カ月前に妻の樹木希林さんが逝去。裕也さんのコメントが注目された場でもあったが、この作品のナレーションを務めたのも希林さんだった。
同作が人生最後のナレーションになり、体調も芳しくなかったが、作品を手掛けた崔洋一監督いわく「スタジオに入ると、すごく楽しそうにやってらっしゃいました。収録が終わってからも、満足そうにずっとスタジオに残ってらっしゃいました」とのこと。実際に作品の中の希林さんの声は軽妙で味があり、力もみなぎっていた。
裕也さんが舞台あいさつに出てくるのは上映後の予定だったので、それまでは僕も客席で作品を見ていたが、上映途中で、斜め前の席に誰かが入ってきた。それが崔監督と、裕也さんだった。
自分のドキュメンタリー作品を見ている本人の様子を見ながらスクリーンを見るという、まさに稀有なシチュエーション。映画館なので、当然うす暗い中だったが、その光景は今でも目に焼き付いている。
崔監督は笑ったりアクションも交えながらスクリーンを見ていたが、裕也さんは終始、1シーン、1シーンを噛みしめるようにジーッと見ていた。ただ、唯一裕也さんが身を乗り出した場面があった。それが、ナレーションのみならず、作品後半で希林さんが実際に顔出しでインタビューを受けていた場面だった。
先に旅立った妻の顔と声。もちろん、本心なんてものは裕也さんにしか分からない。しかし、間近で見ている者として、スクリーンから出る光と音をいつくしんでいるようにも見えた。
そして、希林さんが作中で語った「こんなに分かりにくくて、こんなに分かりやすい人はいない。世の中の矛盾を全て表しているのがこの人」という言葉。それをこの上なく噛みしめているようにも見えた。