博隆さんは、かすかに困惑されている様子で言います。

「毎回そのことを責められるのですが、その時は私が家にいても妻の体調が回復するわけではないので会社に行ったんです。過去のことはどうしようもないですし、それ以後は気を付けて、妻の体調が悪い時には『大丈夫?』と言うようにして、できる限り会社に行かないようにしています。でもあれ以降、私が『会社休もうか?』と聞いても、休まなくていいと言うから行くんですけど、最初の1回の失敗をいまだに言われるんです」

 そもそも「責められている」と感じているのだとすれば、感情はあるはずなので、私は

「責められているような感じがしますか?」

とお聞きしました。

 博隆さんは「明らかに責めてますよね」とおっしゃいます。この返事は博隆さんの気持ちではなく、第三者的に見た評価なので話をそらしています。私は改めて、聞きました。

「秋帆さんが責めているかどうかではなくて、博隆さんは責められている『感じ』がしますか?」

 そうすると

「おっしゃっていることがわかりません。私の答え間違っているんですか?」

と、ちょっと無愛想におっしゃいました。ムッとしたのであればそれが感情の動きですから、感情がないわけではありません。

「ちょっとムッとしておられますか?」とお聞きしたら、

「そういう部分も多少あります」とおっしゃいました。

「じゃあ、ムッとされたのは感情ですから、秋帆さんがおっしゃるように、感情がないってことじゃないですよね」

と私が言うと、博隆さんはちょっと安心したようでした。

 そうなると、納得がいかないのは秋帆さんです。

「じゃあ、私が悪いんでしょうか? 私が求めすぎなんでしょうか? でも、どう考えても、婚約から新婚旅行に行くころって人生でいちばん幸せな時期じゃないですか。その時に、あんな対応っておかしくないですか? それが普通なんですか?」

と、せきを切ったようにおっしゃいます。

「おかしいとか、おかしくない以前に、いたわってもらえないんだと感じて秋帆さんは悲しかったんですよね」

 私がそう言うと、秋帆さんの目が潤んできました。

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