「その時は悲しいってことだけだったと思うんですけど、こういうことが何回もあって、私、結婚する相手を間違えてしまったのかも、と思うようになってしまって……」
と言いながら泣きだしてしまいました。
「ずっとそう感じてきたんですよね。つらかったですね」
と私はいいました。そして、博隆さんには、このやり取りを見てどう感じるかお聞きしました。
博隆さんは「どうするべきだったのかな、と思います」と答えます。
「『どうするべきか』は感じていることではなくて、考えていることですよね? どう感じていますか?」
と、もう一度お聞きすると、「申し訳ないな、と思います」と言います。
「申し訳ない」と感じておられるのは事実だとは思いますが、一方で、こういう場合の定型的な答えにも思えたので、「博隆さんは、正解を探しておられますか?」とお聞きしました。
「当然そうです」
と博隆さんがおっしゃるや否や、秋帆さんが割って入りました。
「正解が欲しいなんて言ってないでしょ! あなたが何を考えているのかがわからないのよ! 正解、正解、正解……、正解が見つからないと黙り込むって、ロボットと同じじゃないの!」
博隆さんは、さっきよりもう少しむすっとした感じで
「でも、正解じゃないと君が怒るじゃないか」
少し間をおいて博隆さんが続けます。
「すみません。ちょっと興奮してしまいまして。私こういうのが嫌なんです。お互いに罵り合っても憎しみしか生まれないですから」
私は、博隆さんに尋ねます。
「秋帆さんは、博隆さんにどう対応してほしいんだと思いますか?」
博隆さんは言います。
「それが正直わからないんです。言われたことは、できる限りやろうとしているんです。でも妻はそれでは満足しないんです。私からしたら妻の要求は"後出しじゃんけん"で、後から後から出てくるので対応できないんです。それを察することができない自分が悪いということなのかもしれませんが」
私は、博隆さんに「要求を事前に察知して実現しない博隆さんが悪いと思っているのか、秋帆さんに聞いてください」と促します。すったもんだありましたが、秋帆さんの答えは「NO」でした。