ちなみに、この問題に陽が当たったのは、朝日新聞の11月3日付1面の「官民ファンド高額報酬案」という記事が発端だ。この記事がなければ、田中社長の思惑通り、高額報酬が認められていた可能性が高い。
官民ファンドに群がる民間人材は、自分たちはリスクを取らないので、マスコミや世間の注目を浴びやすい派手な投資案件をぶち上げたがる。それで名前を売れば、転職後の給料も上がるという計算が働くからだ。官僚には目利き能力はないから、そうした派手な案件を並べられると、さすが民間のプロは違うなと感心するというお粗末な状況になる。かくして、官民ファンドでは、当初の公共政策的な目的は忘れ去られ、「儲かるぞ!」という掛け声のもとに、イケイケドンドンでずさんな投資がまかり通ってしまうのだ。
また、官民ファンドが使う政府出資や政府保証付き債券発行という資金集めの手法は、官僚にとっても使いやすい。これらは、補助金事業のように国庫からすぐに予算を拠出して費消してしまうわけではない。一般会計の予算措置がないので、国会や財務省による厳しいチェックも受けなくて済む。
さらに、官民ファンドの設置期間は常に長期化するというのが実態だ。前述したINCJの発足は09年で、設置期間は15年間だった。しかし、一度作られると官僚は決して廃止しない。天下りや現役出向で甘い汁を吸えるからだ。今回もJICに衣替えすることにより、通算存続期間24年間への延命に成功してしまった。
政治家もまた、それをチェックするどころか、そこの利権に一枚かもうと躍起になっている。ベンチャーの世界は、実は政治家にとってはブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)と呼ばれる有望な資金源だ。成功したベンチャー経営者は、巨額の資産を持つ。彼らと仲良くなれば、パーティー券の購入や政治献金も期待できる。ベンチャー経営者への見返りには、経団連などの大企業経営者への紹介という手がある。また、役所の審議会などの委員に抜擢するというのもよく使われる手だ。これらは、カネはあっても社会的信用力がないというベンチャー経営者にとっては、非常に魅力的な飴になるのだ。政治家や官僚から見ると、簡単な便宜許与なので、最近の政府の審議会や研究会にはベンチャー経営者がメンバーになるケースが増えている。