日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、赤ちゃんの「腸内細菌」について「医見」します。
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人間の腸の中には100兆個以上の細菌が住みついて、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)と呼ばれる生態系をつくっています。近年はゲノム技術の発達により、培養をしなくてもどんな腸内細菌がいるか調べることができるようになったため、腸内細菌についての研究が大きく進んできました。健康であることと、腸内細菌の種類や多様性には、どうやら関連があるのではないかと言われはじめています。よく話題に上るのはダイエットや花粉症との関連なので、子どもにはあまり関係ないように思えるかもしれません。しかし、腸内細菌叢がつくられるのは子ども時代、特に新生児から乳幼児期にかけてなのです。
そもそも、赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいるときは無菌です。しかしお腹の外に出るその瞬間から、赤ちゃんの消化管に菌が入り込んでいき、腸内細菌叢をつくります。出産方法が経膣分娩なのか帝王切開なのかや、母乳栄養なのかミルク栄養なのかといった違いによって、赤ちゃんの腸内細菌叢も異なることがわかってきています。
実は子どもでも腸内細菌と肥満やアレルギー、免疫系の疾患との関連が示唆されており、出産方法や栄養方法と肥満等の関係を調べた研究が複数あります。
例えば、2016年にハーバード大学から発表された研究では、9~12歳の子2万人以上を10年以上に渡って追跡しています。追跡中のどこかの時点で肥満と分類されるリスクは、帝王切開で出生した子の方が、経膣分娩で出生した子の1.15倍になっていました。
同じ子どもたちのデータを使って、9~12歳の子どもの肥満と、その子達が赤ちゃんだったときの栄養方法を調べた研究もあります。生後6カ月まで母乳だけで育てられた子は、ミルクだけで育てられた子と比べて、肥満のオッズが0.66倍と低いことがわかりました。また、母乳を長く飲んでいればいるほど、肥満になるオッズは低かったのです。