さて、つい先ごろの7月に亡くなられた国際的な彫刻家・流政之氏の作品が、西新宿の新宿住友ビルの前に置かれている。作品名は「玉ちゃん」、の誕生年は文明狂年、まさにこの道灌伝説を持つ黒猫がモチーフの作品である。

●江戸の文化財として今も残る浅草・今戸焼

 浅草は浅草寺の門前にできた市がさまざまなものの流行を作り出してきた。羽子板やほおずきをはじめ、生活用品、流行の食べ物など今でも東京の流行り物は浅草寺門前にいち早く店ができるほどである。その市で、今戸焼という浅草の北側にあった窯で焼かれた招き猫が売り出され、「丸〆猫」=“福をまるまる独りじめ”できるとしてブームを巻き起こす。これは死んだ飼い猫が夢枕に立ち、老婆に「自分の姿を真似た人形を作って売れ」と告げたことから誕生したと言われている。

 この時代に作られた招き猫の現物が唯一残る発祥の地で、尾張藩川田久保屋敷のゴミ捨て場から見つかった嘉永時代の丸〆猫は、現在新宿区教育委員が所蔵している。また、江戸東京たてもの園にはもう少し保存状態のよいものが残っていて、そのちょっと横向の姿であまりかわいくもない丸〆猫は、今主流の招き猫の姿とは一線を画している。

 今戸焼の窯があった場所に、現在鎮座する今戸神社では、この招き猫にあやかった対の招き猫がイメージキャラクターとして定着、縁結びのお宮として若い女子たちに人気のスポットとなっている。

 ほかにも、全国各地に招き猫発祥といわれる地はあるが、招き猫が現在の愛嬌(あいきょう)ある姿へと定着していった理由は日本一の招き猫の生産を誇る常滑市が作った造形によるところが大きい。今では常滑焼に加え瀬戸焼などを擁する愛知県は、招き猫の一大産地となっているのだ。

 ところで、9月29日は“くるふく”ということで、「招き猫の日」が制定されている。豪徳寺近隣や愛知県瀬戸市や三重県伊勢市などでも各種イベントが行われる。今では招き猫は街おこしの一翼もさえも担う、ラッキーアイテムと成長したようだ。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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