司法試験合格率の低下と、法科大学院入学者数の減少。そのいずれも挽回できない。それゆえ、募集停止し、他の法科大学院に託す、という結論になったわけだ。
一般入試志願者15万人を超えて5年連続日本一を誇ってきた近畿大だが、法科大学院について元気さは見られない。
もっとも、苦境に陥っているのは近畿大に限らない。法科大学院全体の志願者数は、18年度まで11年連続で減少している(文部科学省調べ)。
法科大学院が次々と募集停止に追い込まれた要因には、優秀な学生が法科大学院に進まず、予備試験ルートで法曹をめざすようになったという事情がある。
これは、学部在学中などに司法試験予備試験を通過して司法試験の受験資格を得て、同試験に合格するというルートだ。法科大学院の学費(200万~300万円)、在学期間(2~3年)という「負担」をかけないで済ませる、いわば法曹への近道である。経済的事情などの理由で法科大学院に通えない者に対する救済制度だったが、優秀な学生が法科大学院の存在をあざ笑うかのように活用しはじめたわけだ。
18年の司法試験で、法科大学院修了者と予備試験通過者それぞれの合格者数と合格率は次のとおり。
法科大学院修了者=1189人(前年比64人減)、24.75%
予備試験通過者=336人(同46人増)、77.6%
横浜国立大の長谷部勇一学長は記者会見で、法科大学院の募集停止について定員割れが続いたためとしたが、その背景として司法試験予備試験に人気が集まったことをあげている。
自分の能力に自信がある優秀な学生が次々と予備試験ルートを使ったため、法科大学院修了者からの合格率が低迷した、それによって法科大学院志願者数が減少した、ということへの恨み節である。
法科大学院の志願者数減少、法科大学院修了者の司法試験合格率低迷。これらは法科大学院制度の失敗を意味する。このままでは少子化にあって、将来、優秀な法曹志望者を確保することができなくなる。
そして、もう一つ。法科大学院の所在地の偏在化が進んだことも危惧される。
19年度以降、学生を募集する法科大学院の所在地は、北海道、宮城、茨城、千葉、東京、石川、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡、沖縄の14都道府県。
東北は東北大、北関東は筑波大、北陸は金沢大、九州は九州大と福岡大しかない。甲信越と四国はゼロ、都市部人口密集地の埼玉、神奈川も一つもなくなった。
これでは地方分権、地域活性化が進まない。国は法曹養成において少子化、地方活性化にまったく対応できていない。何年も前からこうした事態は予測できていたのに、法曹養成では無策が続いた。法科大学院に関わる文科省、法務省は早急に有効な改善策を打ち出すべきだろう。