妻夫木さんが語るように、本作品は主人公の夫婦だけでなく、加害者側である市民たちにも、つい感情移入したくなるような場面が多い。貫井さんも、ドラマの中で「市役所員が自分のミスの言い訳をするシーンがすごく印象に残った」と話す。

「言い訳の仕方が、すごく腹が立つんですよ(笑)。でも向こうの立場に立つと、ああいうクレームをつけられたら、そりゃ必死になって自己弁護するよなあと、共感できてしまう。腹が立つんだけど、わかっちゃう」

 講演会の後半では、こうした貫井作品に登場する人物の創作術や、小説の発想法についても話が及んだ。

「作中では人間の暗い部分がリアルに描かれているが、普段どのように人間を観察しているのか?」という会場からの質問に対しては、「昔、不動産会社の営業をやっていたときの経験が参考になっている部分はあるかも」と回答。

「人って、高額なお金がかかると性格が変わるんですよ……(笑)。でも、普段から人間の嫌な部分ばかり探しているわけではありません。小説は小説の中だけで、私生活の人間関係とは切り離しています」

 また、「『乱反射』の中で、いちばん自分に近いと思う登場人物は?」という質問に対しては、思わぬエピソードが披露された。

「自分に近い人はいないし、全員が自分ともいえる。実はタイトルを考えたときに、『私に似た人』という別の作品のタイトルをこちらに使おうかとも考えていたんですよ。この作品は一見すると、市民の無関心を糾弾しているように思えるかもしれませんが、そうじゃないんです。全員が自分、他人事じゃありません」

(ライター・澤田憲)