陰謀論を信じる母に悩む28歳女性に、鴻上尚史が明かした「カルト宗教にハマった友人の洗脳を解いた」過去

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鴻上尚史さん(撮影/写真部・小山幸佑)
写真は本文とは関係ありません(※イメージ写真/iStock)作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします

 SNSを通じて陰謀論に傾倒するようになった母を心配する28歳女性。母を説得しても効果がなく「正直、負担」と悩む相談者に、鴻上尚史が語る「カルト宗教を信じる友人を洗脳から解いた」その後。

【相談113】母が1年ほど前から、SNSを通じて陰謀論の世界に入りこみ始めました(28歳 女性 じーこ)

 私の悩みは、母(50代前半)が陰謀論に傾倒していることです。

 母は1年ほど前から、SNSを通じて陰謀論の世界に入りこみ始めました。人の思想はそれぞれなので、陰謀論を信じること自体を否定しているわけではありません。

 ただ「今まで教わってきたことはすべて嘘だった」と言ったりして、世の中の現在や過去の出来事を陰謀論に結び付けている意見を疑いもせず信じているように見えます。そして、それはとても危険なことだと私は考えています。物事を批判的な目で見て、自分で考えるきっかけになっているのであれば良いのですが、そうではないので。このままだと将来、今より年齢を重ねたときに何かトラブルに巻き込まれてしまうのではと心配しています。

 母は現在、私の父(50代前半)と2人で暮らしています。フルタイムで長年働いていましたが、数年前に仕事を辞め現在は専業主婦です。子供3人(私、弟2人)は全員独立しています。私や弟たちに陰謀論者から得た情報をメールで伝え、気を付けるように促してきます。母としては、親心から子供たちに正しい(と考える)情報を伝えようとしているのだと思いますが、私と弟たちはそのような状況にある母を心配しています。

 父は、仕事がシフト制のため母と生活リズムが合わないこともありますが、会話自体も少ないようです。父は母の行動に対して特段何か言っている様子はありません。

 私は、母親が陰謀論に傾倒し始めたのは時間が有り余っていることと、なんらかの孤独を感じているからだと思います。スマートフォンでSNSを見ながら過ごしているようで、そこから陰謀論の情報を得ています。仕事を辞め、自由な時間がたくさんある中で、特に周囲に友達もおらず父とも会話が少ない。かつ、母は元々外に出るのを億劫がるところがありましたが、このコロナ禍で拍車がかかり、現在では自宅の庭に出ることすら躊躇う日もあると話していました。このままでは、長期的に見たときに、体力が低下し健康面でも不安があります。父の仕事がシフト制になったのも1年ほど前で、様々な要因が合わさって現在のような状況になっていると思います。

 私は実家から新幹線を利用する距離に住んでいるため、母とは電話やメールで連絡を取り合っています。母と電話するときには出来るだけ話を聞き、母の意見を否定しないようにしています。その上で、矛盾点があるときは疑問を投げかけるなど、「物事を知ることは大切だけど、過剰になると良くないからほどほどにね」と出来るだけ間接的に母に陰謀論を客観的に捉えてもらえるように促していますが、現状効果はありません。毎回電話が1時間に及び、延々と陰謀論の話を聞き続けるのは正直、負担です。

 話が脱線しますが、私が小学校低学年のときに母がとある新興宗教の信者をしていました。当時幼かった私は、母にその宗教の集まりに連れていかれ、なぜか分からないけども、その集会には行きたくなかったことを覚えています。 父が激怒した結果、母は集まりに行くのをやめました。

 母のとある宗教への信仰と今回の件は、似ていると思います。信仰がある人を貶めているわけではなく、母が何か一つの意見へ傾倒しやすい性質があるのではないかと思うからです。

 直接的に私や家族が諭しても、母は否定されていると思い意固地になりそうですし、このままにしていても悪化する一方だと思います。批判的思考や論理的思考を知ってもらう為に母に本を贈ることも考えましたが、母は本や漫画を読まないことを思い出し、やめました。

 根本的な解決方法ではありませんが、母が自分のことで忙しくなれば陰謀論に接する時間が減ると思います。しかし、母は前述の通り引きこもりがちであり、パートであっても仕事を始める様子はなさそうです。

 また父に対しても、母の夫としてなぜ何もしないのかと不信感を抱きます。

 きょうだいで早くこの状況を何とかしないと、と話し合っていますが、効果的な解決方法を見出せずにいます。

 鴻上さん、どうしたら良いでしょうか。

【鴻上さんの答え】
 じーこさん。本当に大変ですね。コロナ禍の不安な世の中で、じーこさんと同じ悩みを抱えている人は増えているんじゃないかと思います。

「母のとある宗教への信仰と今回の件は、似ていると思います」と書かれていますが、僕はずっと陰謀論とカルト宗教に「ハマる」人は似ていると思っています。

 そして、だからこそ、じーこさんの相談に、うまくアドバイスできるだろうかと心配しています。

 僕は昔、友人を奪おうとするカルト宗教と戦ったことがありました。

 僕が大学生の時は、カルト宗教と名乗らず、一般的なふりをしたサークルが大学にはありました。

 映画を鑑賞して話し合うとか、ハイキングに出かけてレクリエーションを楽しむ、なんていうサークルです。そして、徐々に親しくなって、少しずつ「真理に興味ある?」「世界の本当の姿を知りたくない?」「本当の幸福について考えたことある?」と誘導していくのです。

 やがて気がつくと、カルト宗教独自の世界観にどっぷりとハマって、この世界は間違いだらけで、でも人々は本当の姿に気付いてないと思い込むようになります。

 そして、「真実」を知った自分は、一刻も早く多くの人々に伝えなければいけないと信じるようになるのです。

 ね、じーこさん。陰謀論を信じる人ととても似ていると思いませんか?

 カルト宗教にハマる根本の原因は淋しさや不安で、それは陰謀論も同じだと僕は思っています。

 そして、さらにのめり込む理由は、「使命感」と「充実感」です。

 自分だけが知っている真理を世界の人々に伝えなければいけないという「使命感」と、活動を続けることで信者・仲間を獲得するなど、なんらかの手応えによる「充実感」が、カルト宗教と陰謀論を信じ続ける動機だと僕は思っているのです。

 自分だけが知っている「世界の真実」を他人に語る時、「使命感」と「充実感」を感じ、ずっと苦しめられていた淋しさや不安、空しさは消えていきます。

 ですから、冷静な論理的説得は意味がないのです。

 僕は、カルト宗教にハマった友人に、必死で調べた「教義の論理的矛盾」や「教祖のスキャンダル」「集められた金の行方」を話しましたが、友人を説得することはできませんでした。

 カルト宗教の側から、いくらでも説明(というかごまかし)が語られたからです。

 陰謀論も同じです。どんな言い方をしても、陰謀論側から反論が生まれます。

 最終的には、フェイクニュースをでっちあげればいいのですから、どんな論理的説得も論破できるのです。

 カルト宗教も陰謀論も、論理的に説得しようとすることは、それを信じている人の不安と淋しさを増幅させるだけだと僕は思っています。結果的に信仰を強化することにはなっても、洗脳が解ける可能性は少ないでしょう。

 カルト宗教から脱会させる一般的な方法は、まずは、カルト宗教と具体的に距離を取ることです。

 カルト宗教に友人を奪われそうになった時、まず、僕がしたのは、友人を具体的に宗教団体から離すことでした。

 カルト宗教側は、団体から離れることのマイナス面を熟知していますから、なんとかして信者を取り戻そうとします。団体で共に生活している限り、「使命感」と「充実感」を与えることができると確信しているからです。

 ここが、陰謀論との違いです。

 陰謀論がやっかいなのは、カルト宗教のように、「教会本部」という「離れる場所」が明確ではないことです。

 じーこさんが書かれるように、SNSを通じて、いつでも信者はアクセス可能なのです。

 ただし、カルト宗教と違って、陰謀論の場合は、陰謀論から離れようとする人を見つけ出し、連れ戻そうとする激しい動きは基本的にはない、と言っていいでしょう。

 ただし、陰謀論を信じる人達が集まり、集団を作り、共に活動を始めてしまうと、カルト宗教と同じになります。

 SNSでつながるだけではなく、現実の世界でも共に活動するようになると、陰謀論の世界から離れるのは、とても難しいんじゃないかと危惧します。

 アメリカで議事堂を襲撃した人達の中には、ネットで出会い、現実でもつながったグループが多かったはずです。

 そもそも、カルト宗教も陰謀論も、「充実感」を獲得するためには、「他人」が絶対に必要になります。

 ハマればハマるほど、信じれば信じるほど、他人に熱心に「独特の世界観」を説きます。

 それは、心のどこかに「独特の世界観」に対する「一抹の不安」があるからじゃないかと、僕は考えています。

 どんなに陰謀論・カルト宗教の世界観を信じていても、心の深い部分で「本当にそうだろうか?」「あまりにも一方的すぎないだろうか?」という疑問が微細な泡のように浮かぶからこそ、必死に他人に教えを説くことで、泡の一つ一つを潰しているんじゃないかと感じるのです。

 それは多くの場合、無意識の行為かもしれません。

 でも、はっきりしているのは、熱心な信者になればなるほど、「伝えたい誰か」を強く求めるということです。

 逆に言えば、「伝えたい誰か」が存在しなければ、熱心な信者であり続けることは難しいのです。

 じーこさんのお母さんが、「毎回1時間の電話」をするのは、そうすることで自らの「信仰」を強化していると考えられるのです。

 じーこさんや弟たちが、やがて長時間の電話に疲れてお母さんの話を聞かなくなったとしたら、お母さんは「充実感」を得るために、話せる「他人」を求めるでしょう。

 陰謀論にハマることの問題点は、これです。アメリカの場合のような陰謀論グループに属していれば、仲間でお互いの「信仰」を検証し合いますが(だからこそ、自分の信仰を証明するために、暴力的な行動に出たりするのですが)、SNSで陰謀論を知り、現実では他人とつながっていない場合は、話せる「他人」を求めるようになります。

 結果として、「独自の世界観」に驚いた近所の人達や昔の友達、つまり「世間」を失っていきます。

 ただし、ここで陰謀論そのものを疑い始めるという可能性はあります。周りのあまりの反応の無さや無関心に、「陰謀論を信じることで、かえって淋しさや不安が増大すること」に気付く場合です。

 ですが、反対の結果になることの方が多いかもしれません。「世間」を失っても挫けず、「社会」の人達、つまり、自分とはまったく関係のない人達に話し始めるという可能性です。SNSで発信を続けたり、何らかの運動に参加したり、戸別訪問を始める場合です。

 じーこさん。ここから僕は厳しいことを書かないといけません。

 カルト宗教にハマった友人を奪還するために、僕は徹底的に付き添いました。女性の友人でしたが、ハマった動機が淋しさや不安だと感じたからこそ、友人が淋しさや不安を感じないように、常に一緒にいようとしたのです。

 カルト宗教の人達からは逃げ続けました。アパートに押しかけられたり、待ち伏せされたりすることを避けるために、友人に引っ越しを勧め、手伝いました。カルト宗教の人達と出会わないために、間一髪で、窓から逃げたこともありました。

 そして、友人を安心させ、安定した気持ちになった時に、あらためて「教義の矛盾」を語りました。ゆっくり、ゆっくりと、僕がおかしいと思うことを話しました。

 冷静な説得ではなく、温かい説得を続けたのです。

 一週間ぐらいして、友人は話している最中、突然、号泣しました。それが、洗脳が解けた瞬間でした。論理的な説得が効いたのではないと感じました。ただ、僕といる温もりが最後の扉を開けたと感じました。

 そして、友人は、カルト宗教ではなく、僕に依存するようになりました。僕達は話し合い、友人は東京近郊の親戚の家に住むことになりました。友人はそこから生活を立て直すことができました。

 大学生だったから、ここまで友人とつきあえたのですが、正直に言うと、僕は疲れ切っていました。数カ月間、かなりの時間を友人に使っていたからです。

 それからしばらくして、別な友人がまたカルト宗教にハマりました。

 でも、僕はその時は、演劇を始めていて、忙しい日々を送っていました。

 大切な友人でしたが、とても忙しくて、その友人の「不安と淋しさ」を埋める時間はありませんでした。

 僕は一人の人生を救うためには、もう一人の人生が必要なんだと思いました。片手間ではカルト宗教とは戦えない。戦うなら、僕の人生全体を使う必要がある。

 でも、僕には僕の人生があって、僕はこの友人のために自分の人生は使えない。それが、当時の僕の結論でした。

 じーこさん。こんなことを書いてごめんなさい。でも、お母さんを陰謀論から抜け出させるためには、お母さんの不安や淋しさを丸ごと引き受ける必要があるだろうと僕は思っているのです。

 それがどれほど大変なことか。あらためて書くまでもないでしょう。じーこさんや弟たち、父親の人生全体が問われるのです。

 でも、陰謀論はそれぐらい手ごわい相手だと僕は思っているのです。

 できる限り、家族全体で母親の「不安と淋しさ」を分担して引き受けるという方法があるかもしれません。

 長電話をやめて、簡潔に対応するようにして、母親の変化を定期的に見るという方法もあるでしょう。「世間」を失うことで陰謀論から戻るのか。さらに進むのか。

 ちなみに、僕が対応できなかった別な友人は、最後の最後、カルト宗教が用意したイベントに参加する直前、踏みとどまりました。そのイベントは、友人の人生そのものを決めるイベントでした。彼女はカルト宗教と引き換えに、自分の「世間」をすべて失うことを拒否したのです。

 じーこさん。僕がアドバイスできるのはここまでです。じーこさんにはじーこさんの、弟たちには弟たちの、父には父の人生があると思います。その中で、どれだけの時間とエネルギーをお母さんに使えるかは、それぞれの人が決めることだと思っているからです。

 じーこさん。切なくて苦しくて本当につらい戦いだと思いますが、心から応援します。

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