「この虫はアダンという植物を食べているので、煮だすとパナマ帽の匂いがするんですよ」と後北さん。初めて参加した40代の女性は「以前、腸内細菌のサイエンスカフェに参加したので、うんこつながりで参加してみました。初めての染め物体験が、まさかのうんこ染め」と笑う。筆者のスカーフは金色にも見えるもえぎ色に染まり、初体験ながらその美しさに感嘆した。
食糧難を救うのは昆虫食であるといわれ、今後私たちの命を救うかもしれない虫を、うんこから知るのもおもしろそうだ。
■学芸員がラップ!?
そもそも、「西の美術館、エモいことやってる!」と注目されたのが、今年1月9日に開催された岡山県立美術館主催企画「美術館学芸員 ラップバトルトーナメント-最強の推しを決めろ!学芸員フリースタイルバトル」だ。キャッチコピーは「それぞれの推しがある」。学芸員がなぜラップ? あまりのギャップ! インパクト大のブッ飛びようにSNSがざわついた。
発端を聞けば、同館は例年、成人の日に新成人を無料招待しており、美術館をより楽しんでもらうイベントをと、東京の音楽イベント企画会社「遊覧座」の代表取締役、斗澤(とざわ)将大さんに相談した。
「学芸員の鈴木恒志さんと話して、阿弥陀如来(あみだにょらい)を語るその話しぶりに感銘を受けて、『学芸員さんっておもしろいんだな』って思ったんです。そんな学芸員さんの情熱をそのままお客さんに伝えたくて、ラップバトルを選びました」
と、斗澤さん。学芸課長の福冨幸(ふくとみこう)さんが、トークが上手と定評のある県内の学芸員3人に依頼したものの、「みな『RAPとは?』を調べるところから始まったんです」(福冨さん)。
■あふれる作品への愛
こうして迎えた当日。先着順で受け付けた同館内ホールは長蛇の列で180席が即埋まり、約30人が入場できないほどの盛況ぶり。トーナメント出場者は、同館の鈴木さんがあいにく病欠でリリック(歌詞)のみ紹介され、倉敷考古館から狛犬(こまいぬ)ラブの伴祐子さん、林原美術館から工芸品愛に生きる橋本龍さん、岡山市立オリエント美術館から古代ガラスの謎に迫る四角隆二さんが、各自の作品愛を8分ずつビートに乗せて叫んだ。最終的に橋本さんが優勝を勝ち取った。