例えば掲載した場面にわかりにくいところがあったというなら、別の場面を使うなどいくらでも改善の方法はあったはずだという。さらに、「漫画」を学校教材として使っていた意義も大きかったと中嶋さんは話す。
「大切なのは、『はだしのゲン』が子どもたちにとって平和の尊さや原爆の悲惨さを知る“入り口”になっていたことです。体験談を読んでさらにその先を知ることは、小学生にはハードルが高いと思います。入り口になったものを取ってしまったことで、先が広がらなくなる心配があります」
今回の件を巡って、SNSでは、<「はだしのゲン」より原爆の実態伝えられるものはないのに、どうして>と市教委の決定に批判の声が多いが、<小学生にあんなもん見せてもトラウマになるだけ>など差し替えに理解を示す声も少なからずある。中嶋さんは言う。
「作品ですから、好き嫌いはあります。しかし、今回のことをきっかけに、学校から『はだしのゲン』がなくなることにつながってはいけません。教育委員会はこれまで以上に、学校図書館等での積極的な活用を促進すべく配慮する責任があります」
■「戦争は絶対にいかん」
生前の中沢さんと長年交流があった、NPO法人「ANT-Hiroshima」(広島市中区)の渡部朋子理事長は言う。
「『はだしのゲン』は、中沢さんの『戦争は絶対にいかん』という思いが詰まった漫画です。中沢さんはいつも子どもたちに『平和というのは宝物なんだよ』と話していました。ウクライナで戦争が起き核の恐れが消えない今の世界で、少しでも多くの子どもたちに読んでほしいと思っていますし、中沢さんもきっと同じ気持ちだと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年3月6日号