減酒外来では「お酒の量を減らす」ことや「問題のない飲み方をする」ことなど、それぞれの目標設定に合わせた酒との付き合いをサポートする。生活習慣の行動変容を目指すカウンセリングが中心だ。
「『恥の文化』が根強い日本では、自分の弱い面をさらけ出すことに抵抗を感じる人が多いと思います。本音を引き出せる関係を構築するのも医師の重要なテクニックです」
こう話すのは精神科以外で全国初の「アルコール低減外来」を19年に開設した北茨城市民病院附属家庭医療センターの吉本尚医師だ。
アルコール依存症に関する18年の診断治療ガイドライン改定で、精神科以外の内科などでも初期の依存症患者の診察が推奨された。吉本医師はその最大のメリットは「アクセス改善」だと言う。
「内科や小児科もある医院だと、対外的なメンツを気にする人も受診のハードルが低くなります。外来患者には医療関係者も珍しくありません」
同センターの外来は内科治療も並行するのが特徴だ。長年の飲酒習慣で内臓疾患を併発している人が多いため、採血や肝臓機能のチェックも行いつつ、飲酒改善も指導する。高血圧や糖尿病の薬も処方してもらうため、途中で通院しなくなる患者は少ないという。
■周囲の人にばれている
筑波大学准教授の吉本医師はこれまでに、同センターと筑波大学附属病院で合わせて約170人のアルコール低減外来の患者を治療してきた。平均年齢は50代後半だ。この世代は、仕事に対するモチベーションの変化が飲酒のきっかけになりやすいという。
「定年後に時間をもてあまして飲酒する人もいますが、意外とその手前の世代が多いように感じます。がむしゃらに働いてきた人が、社内でのポジションも先が見えてくると仕事のモチベーションが下がり、その心の隙間をお酒で埋めてしまうわけです」
女性の場合、介護がきっかけの人が目立つという。親の介護で外出できなくなり、ストレスが発散しにくくなって飲酒を習慣化してしまう。心身の不調も飲酒のきっかけになりやすい。加齢とともに体の自由が利かなくなったり、身近な人と死別したりする「喪失体験」を飲酒で癒やす傾向は男女を問わない。吉本医師は言う。
「こっそり多飲しているつもりの人も、実際は周囲にばれていると考えたほうがいいでしょう。中高年は特に、これまで築いた社会的信頼を飲酒で失うリスクが大きいことを肝に銘じる必要があります」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年2月6日号より抜粋