AERA 2023年2月6日号より
AERA 2023年2月6日号より

 男性は飲酒による暴力や暴言で、家族や同僚に迷惑をかけたことはないという。とはいえ、隠れた飲酒の要因を抱えているのかもしれない。そう考え、3カ所の精神科を受診したが、いずれも通院には至らなかった。「ダラダラ飲み」が習慣になると、健康に致命的な悪影響が出るのでは、という不安もある。男性はこう打ち明けた。

「夜な夜な一人で飲酒しても楽しいことなんてありません。依存症のボーダーラインにいると自己分析していますが、本当にこのままでいいのでしょうか」

「依存症予備軍」かもしれない、と自覚している人は少なくないだろう。だが、そんな人もすでにれっきとした「依存症」の可能性がある。

「いわゆる『大酒飲み』とアルコール依存症の人は根本的に異なるものではなく、飲酒が増えるにしたがって連続して依存が強化されていくものなので、境界線上の人では『ここから先は依存症』と明確に線引きできるものではありません」

 こう話すのは、国立病院機構久里浜医療センターの木村充副院長だ。コロナ禍の臨床現場で実感してきたのは、働き盛り世代の酒量の増加だという。

 同センターは17年に「減酒外来」を開設。「飲酒に問題を感じているすべての人」が受診できるよう間口を広げた。すぐに飲酒をやめることができない場合は飲酒量を減らすことから始め、飲酒による害をできるだけ減らす「ハームリダクション」という概念に基づいている。

「アルコール依存症は飲酒を断つしか治療法はないと言われてきましたが、医療が早くから介入したほうが重篤化を防ぐことができます。であれば、『断酒』ではなく『減酒』が入り口でよい、という認識がこの10年で定着しました」(木村副院長)

■最多はブラックアウト

 減酒外来を受診するのは、収入や生活が安定した現役世代が目立つという。

 同センターが17~18年に減酒外来を受診した人の属性を調べたところ、平均年齢は男性が48歳、女性が43歳。仕事に就いている人が男女とも9割超。同居家族がいる人が男女とも約8割。男性の学歴は大学卒と大学院卒で7割を超えた。受診理由で最も多いのが「ブラックアウト」(記憶がなくなる)で3割強を占め、身体的(健康)問題、暴言・暴力と続く。

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