「上司から怒りを向けられたこともあります。互いに異次元の人と話しているようで、話し合いが難しいこともあった」

 と振り返る。中小企業で代替要員を探すのが難しく休みたくても休めないケースや、「うちの会社には男性の育休制度がない」と思い込んでいる人も多くいる。

「育休制度への本気度が企業の生き残りに直結する時代がすでに始まっています。育児はマネジメント力取得の絶好の機会。上司はそんな視点で部下の取得を後押しできればいいですね」(前出の加藤准教授)

■育休をカスタマイズ

 千葉県では「働き方改革アドバイザー」を設置。同県内で事業を営む中小企業を対象に、社会保険労務士や経営コンサルタントらを無料で派遣。働き方改革や少人数の中でどう育休を取得させるかなどの相談に応じている。対応に悩む会社側は、こうした自治体のサービスを利用するのも手だろう。

 育休を自分なりにカスタマイズできるのも改正育児・介護休業法の利点だ。都内の広告会社で働く西井美保子さん(36)は8月、第2子となる長女を出産。2カ月後の10月半ばに復職した。

 法改正により10月から育休が分割取得できるようになると知り、真っ先に手を挙げた。まだ保育園に入れない長女はベビーシッターや都内に住む両親に預け、授乳をしながらオンラインの打ち合わせに臨み、昼寝の隙に資料を作成している。長女の様子を見ながら、数カ月後に最初の育休を取る予定という。

 西井さんは、長男(5)の出産後は、早めに仕事に戻りたかったが保育園になかなか入れず、結局1年半の育休を取得した。

「100%の力でやってきた仕事をゼロにして子育てをするのが、働きたい私には苦しかった。段階的に仕事に戻れれば、精神的にもラク。やっと構築できた生活リズムを変えることなく、長男に生き生きと働くママの姿を見せたいという思いもありました」(西井さん)

 育休を「分業体制強化期間」ではなく、「協業体制構築期間」へ。その発想の切り替えとカスタマイズが、女性側の負担を変える突破口となるはずだ。(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年10月31日号より抜粋

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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