夫婦像は祖父母からインスピレーションを得ています。彼らは羊飼いとして男女の区別なくお互いをリスペクトし、同等にやるべき仕事をやっていました。いまでは普通のことかもしれませんが、僕が幼い頃、そんな夫婦の関係性は珍しかった。特に祖母はとても強い人で、マリアのキャラクターは祖母に大いに影響を受けています。
30代半ばでタル・ベーラ監督とアピチャッポン・ウィーラセタクン監督と出会い、映画の見方が変わりました。「ブンミおじさんの森」を最初に観たときの感覚はいまだに忘れられません。不思議なことはいま、この日常に実在しているのではないか。そう思わせる手法に驚かされました。タル・ベーラ作品も同じくカットが少ない映像のなかで観客は俳優たちとたっぷりと一緒に時間を過ごします。そこにマジックが起こるのです。
アイスランドは生き物と人間、自然の関係が濃く強い土地です。それは現代社会で見つめ直すべきものでもある。本作がそうしたことについて会話をするきっかけになればとも思います。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年10月2日号