AERA 2022年9月19日号より
AERA 2022年9月19日号より

 中央大学法学部の宮本太郎教授はこう指摘する。

「背景に『3重の所得低下』と『3重の不安増大』があります」

 所得低下の一つ目は給料の減少だ。企業が創出した付加価値のうち、人件費の占める割合を指す労働分配率が下がっている。

「00年と19年を比較すると、労働分配率は中堅企業で3.4%、大企業で6%低下しています。また、55歳で役職定年を迎え、給与がカットされる状況も広がっています」

■生活の安定が揺らぐ

 二つ目は社会保険料負担や税負担の増加による可処分所得の低下だ。今年は1947年に生まれた団塊世代が75歳を迎え、医療費の負担が激増する「2022年危機」とも言われる。

「組合健保で見た場合、10年には7.7%だった保険料率が今年は10%を超えると言われています。厚生年金の保険料率も10年は16.058%だったのが17年には18.3%に。介護保険も同様で、明らかに可処分所得が食われている」

 三つ目は物価上昇に伴う実質賃金の低下だ。これが購買力の低下にもつながっている。

「ネット社会には『余裕がありモノが買える人たち』の姿も見えてしまう残酷さがある。いわゆる『中間層』はそもそも生活の安定を夢見てきた層。その根本が揺らぐ現状のつらさはひとしおだと思います」

「3重の不安増大」の1点目は、「教育費等がかかる年代になれば、賃金は年功で上がる」という暗黙の社会契約の揺らぎだ。

「頑張っても『生活の保障』はもはやなく、逆に頑張らないと不安定就労等の『孤立圏』に追い出されかねない。防衛的になり、忖度ばかりしながら仕事せざるを得ず、やりがいがない。そのつらさからくる不安です」

 残る二つは、「家族に関わる不安」「自身の老後不安」だ。老後の蓄えは足りるのか。自分は55歳で賃金が下がっても65歳定年までたどり着くかもしれない。だが、子どもたちはどうか。

「子どもは人並みに育ててやりたい。でも、子どもに結果的に『親ガチャ外れた』と言われるのではというつらさもある」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年9月19日号より抜粋

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら