実質GDPは伸びず、人口減が続く。「中間層」だったはずなのに、生活苦や将来の不安に悩む人は少なくない(撮影/写真映像部・松永卓也)
実質GDPは伸びず、人口減が続く。「中間層」だったはずなのに、生活苦や将来の不安に悩む人は少なくない(撮影/写真映像部・松永卓也)

 1億総中流ははるか昔の話だ。気づけば、「失われた20年」は「30年」になり、賃金は増えず、物価は上がり、人は格差に疲弊している。もはや「1億総五里霧中」。多くの人が将来への不安を抱えている。AERA 2022年9月19日号の記事から。

【日本の実質GDP成長率(年間変化率)の推移はこちら】

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「生活、苦しいです。ずっと『中の下の暮らしかな』と思ってきたけど、わからなくなりました。どうしておれは散髪に行く金もないんだ?と」

 こう話す会社員男性(58)は妻(60)と都内マンションで二人暮らし、子どもはいない。正社員として年収は約520万円、日本の平均年収以上だ。介護士の妻も扶養範囲内で約100万円の収入があるが、「出ていくお金ばかり」と嘆く。

「会社の経営が悪化、給料が月8万減ったのが2018年、以来ボーナスもゼロ。14年にマンションを3700万で購入したのが痛かった。ローンは2400万残っていて、月10万の支払いが78歳まで続きます。半額に優遇されていた固定資産税が今年から正規の額になったのも大きな負担です」

■可処分所得は月8千円

 さらに、体に障害のある妹(51)の治療費が月に2万円。ドル建て生命保険の保険料が円安で上がり、月3万円超え。春に亡くなった仙台に住む義母の介護にも交通費がかかり、新興宗教の熱心な信者だったため葬儀代に100万円を請求された。

「妻に毎月5万円渡しているので、私の可処分所得は月8千円。生命保険の契約者貸付100万円に、銀行のキャッシング11万。昔は毎日飲み歩いていたのに、一切行けなくなりました」

 将来への不安も強い。

「年金は私で18万はありそうですが、ローンは払えず、マンションは手放すと思う。最も悩むのは妹の将来です。最低限の経済的な保証がないと、幸せではありませんよ。このところは(出ていく)お金への執着が出てきた自分に驚いています」

 日本は縮んでいる。今年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は年換算で542.1兆円とコロナ禍前の水準を上回ったが、バブル崩壊以降の「失われた30年」でほとんど伸びていない。10年には中国に抜かれ、世界3位に落ちた。人口も前年から約64万人減と、08年をピークに11年連続で減少した。

 そして、富裕層と福祉受給層との間、つまり、安定的に働き社会保険にも入っている相対的「中間層」の中に、将来への不安を抱える人たちが多くいる。

 一体何が起きているのか。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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