AERA 2022年9月4日号より
AERA 2022年9月4日号より

「私の新人時代とはかなり違うな、というのが率直な感想です」と話すのは、調査を担当したリクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員(35)だ。

■三つの背景要因

 確かにかつては呼び捨てか、「くん」付けで呼び、呼ばれていた。とはいえ、経済産業省の官僚だった古屋さんは11年に入省。約30年前に新聞社で社会人生活をスタートした筆者ならまだしも、わずか10年余前の新人の感覚からも乖離しているのには驚く。逆に見れば、この10年で劇的なパラダイムシフトがあったということだ。

 古屋さんは背景要因として3点を挙げた。一つが、職場のハラスメントに対する感覚が鋭くなったこと。コミュニケーションの入り口ともいえる「呼び名」の段階でハラスメントの芽を摘み取っておきたいと考える人が増えた。「さん」付けは、敬意をもって対等な人間として扱う意思の表れ、というわけだ。

 二つ目は「心理的安全性」の高い職場環境をつくりたい、という会社側の意図。心理的安全性の高い職場が若手のやる気を生み、イノベーションにつながるとされている。

 三つ目はダイバーシティーを重視する企業が増えたこと。今回の調査で「ちゃん」「くん」付けは3割足らずだったが、こうした性別に紐づく呼び方はジェンダー平等の観点から敬遠する人が増えたため、ここまで減ったという見方だ。

 とはいえ、ひと昔前なら新人時代に上司や先輩から「さん」付けで呼ばれたら、説教でも始まるのか、と身構えただろう。

「かつては同じ釜の飯を食べた証しとして親しみを込めて、『ちゃん』『くん』付けや呼び捨てで呼んでいた面もあり、『さん』付けが広まることに寂しさを覚える人もいると思います。でも、現代社会は職場だけがその人の活動の場ではなくなっています。その会社では『新人』でも、それまで他の世界で生きてきた人である可能性を念頭に置く必要があります」(古屋さん)

 若手といえども、転職経験があったり、副業で他の会社でも働いていたり、あるいは学生時代からネット上の有名人だったり、地域のコミュニティーで活動していたり、というケースが珍しくなくなっているのだ。

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