障害児を育てる親が仕事と育児の両立するのは難しい。障害児は一定の年齢になっても、ケアが不要になるわけではなく、働く親の育児に終わりがないからだ。そうした状況の中、企業や社会に問われることは何か。当事者でもある野澤和弘・植草学園大学副学長が語る。AERA 2022年5月30日号の記事から。

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 息子は3歳頃に知的障害を伴う自閉症だと診断を受けました。当時は子どもには学校以外の居場所もなく、妻が仕事をせずに子どもの世話を担うしかありませんでした。私は37年間報道の現場にいたのですが、マスコミは「24時間働くのが美徳」みたいな、古い体質の業界。「障害がある子を病院に連れていくから休みたい」と、気安く言えるような雰囲気じゃなかったですね。

 突発的な出来事に対応するためにも柔軟性のある働き方が欠かせません。今はパソコンとスマホがあれば、どこでも仕事はできる。私は論説委員になってからは取材や講演に飛び回り、週に2日ほどしか出社しなかった。「一人働き方改革派」と称して、コロナ前からリモート勤務を敢行していました。

 最近はベンチャー企業や外資系企業をはじめ、多くの企業で働く人の都合に合わせた働き方を認めるようになりつつあります。育児や看護・介護といった事情を抱えた社員を包摂する視点から積極的に制度を整え、企業風土を変えていかないと、今後、企業は生き残れなくなる。ボランティア休暇や兼業・副業も認めていけばいい。働く人からは柔軟な働き方ができる企業しか選ばれなくなってくると思いますよ。

 2005年に障害者自立支援法が成立し、障害者福祉サービスは、量的には拡充されてきました。地域福祉の予算が「義務的経費」になったことは大きい。児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどの拡充により、国の障害者福祉サービス関係の予算額は、この16年間で5倍近くに増えました。そもそも国全体では、増え続ける社会保障費の抑制が課題となっている。けれども、障害児の数が増え、共働きが増えたこともあり、ニーズは高まる一方。今問われているのは、障害者福祉サービスの質の向上です。質の底上げのために大事なのは、専門性がなかったり、収益重視だと感じたりしたら、利用者である親がそのサービスを断ること。親がニーズを丁寧に伝え、支援者を「育てていく」ことです。

 国で法整備が進んでも、ニーズに見合うサービスが現場に行き渡るにはタイムラグがある。「もう自分でやるしかない」と、私は知的障害・発達障害の支援事業所の運営にも乗り出しました。今春、社会福祉法人にしたところです。少しずつでも理想に近づけるケアを実現したいと、試行錯誤している最中です。障害児の子育ては「終わりがないケア」と言われますが、親は先に老いる存在。親だけでずっと我が子を背負っていくことはできません。

AERA 2022年5月30日号