ロシアに対する新たな制裁などについて会見する岸田文雄首相/2022年4月8日、首相官邸
ロシアに対する新たな制裁などについて会見する岸田文雄首相/2022年4月8日、首相官邸

 安倍政権の対ロシア外交の問題点は今後、国会などで追及されるが、岸田氏がどこまで「安倍外交の清算」に踏み込むかが焦点となる。

 安倍氏は最近、核政策に言及し、米国の核を日米両国で「共有」する「核シェアリング」についても議論すべきだと主張しているが、岸田首相は「議論は行わない」と明確に否定。安倍氏との「距離感」を示している。安倍氏は自民党内最大派閥の清和会を率いる。安倍氏は昨年秋の総裁選の決選投票では岸田氏を支持。その後も岸田政権を支えてきただけに、首相が「安倍離れ」を進めれば政権の足元を揺るがすことにもなりかねない。

理念と哲学を示せ

 第三の課題は防衛力の整備である。安倍氏を含め自民党内では、ウクライナ問題をきっかけに防衛費の大幅増額を求める声が強まっている。現在、国内総生産(GDP)比で1%程度となっている防衛費を北大西洋条約機構(NATO)基準である2%にまで引き上げるべきだという意見も出ている。

 一方で公明党には、7月の参院選への配慮から防衛費の大幅増額に慎重論もあり、年末の予算案編成に向けて岸田首相の判断が焦点となっている。

 さらに自民党内では、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡に対抗し、「日本も敵基地攻撃能力を持つべきだ」という議論が高まっている。岸田首相は年内に最終判断する考えだ。

 一連の課題の先には、中国にどう向き合うかという難問が控えている。安全保障では米国と同盟関係にある半面、中国が最大の貿易相手という事情を抱える日本としては、対中強硬路線一本槍(やり)というわけにはいかない。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、冷戦後の世界で日本や欧米諸国が築いてきた民主主義、市場経済、国際協調という秩序に対するあからさまな挑戦である。岸田首相ら政治指導者に求められるのは、まず時代をとらえる理念・哲学を明確に示すことである。具体的には「ロシアの侵略行為は力による現状変更であり、その動きがアジア太平洋に波及することは許さない」という姿勢を打ち出すことだ。

 政権発足から半年余、ウクライナ戦争という歴史の転換点は、官僚の域を超えた政治判断を岸田首相に迫っている。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2022年5月2-9日合併号