国連安全保障理事会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領/国連安保理のユーチューブから
国連安全保障理事会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領/国連安保理のユーチューブから

 岸田首相は、被爆地・広島選出の政治家として「核廃絶」をライフワークとしてきた。外相としても核廃絶に向けて世界の有識者を集めた「賢人会議」を設けるなど、核問題に対する熱意は並々ならぬものがある。

 側近は「プーチン氏が核兵器に触れた時の岸田氏の反発は尋常ではなかった。あの時は核問題についての気持ちにスイッチが入って『許せない』と怒りをあらわにしていた」と語る。

迫られる三つの課題

 岸田首相の対応は今のところ内外で評価されている。朝日新聞の世論調査(4月16、17日実施)によると、ロシアによる侵攻についての対応を「評価する」人が60%で、「評価しない」の28%を大きく上回った。ロシア軍による市民への残虐行為について、岸田首相が「戦争犯罪だ」と述べたことに対しては、「支持する」が88%、「支持しない」が8%。内閣支持率は3月の50%から55%に上昇した。

 とはいえ、ウクライナでの戦闘が長期化の様相を見せ、日本や欧米による対ロシア制裁が強化される中で、岸田首相の今後のかじ取りは容易ではない。

 大きな課題は三つ。第一は米国主導の制裁が強化され、日本にも同調する動きが高まるが、それにどう対応するかだ。例えばロシアが進めている「サハリン1・2」の原油・天然ガス開発には日本の大手商社が参加・出資している。米英両国の石油開発会社は早々と撤退を表明しているが、岸田首相はエネルギー確保のためにも日本企業は撤退しない方針を表明している。

「日本が引いても、代わりに中国が進出してくるだけ」というのが官邸幹部の説明だ。それでも米国などから撤退を求める圧力が強まった時にどうするか。岸田首相の判断が迫られる。

 第二に安倍元首相が進めた対ロシア外交の清算である。

安倍氏との距離感

 安倍氏は第1次、第2次の両政権でプーチン大統領と計27回の首脳会談を重ね、個人的信頼関係を築いた。北方領土問題の打開に向けて4島一括返還路線を転換。歯舞、色丹の2島先行返還に事実上、舵(かじ)を切った。外務省のロシア専門家らは不満だったが、安倍氏は官邸主導で方針を変えた。それでもプーチン氏は具体的な譲歩は示さず、領土問題は進展しなかった。

 今回のウクライナ侵攻を受けて、プーチン大統領に対しては「戦争犯罪人」という批判が強まり、日本政府は北方領土交渉の打ち切りを表明。安倍政権の当時は使わなかった「北方領土は日本固有の領土であり、ロシアに不法占拠されてきた」という表現も復活した。ロシアに対する強硬姿勢は岸田首相の判断を受けたものだ。

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