ウクライナでは侵攻の影響で食料不足が深刻になっている。キエフのスーパーマーケットは、商品がガラガラの棚だらけ/2月28日
ウクライナでは侵攻の影響で食料不足が深刻になっている。キエフのスーパーマーケットは、商品がガラガラの棚だらけ/2月28日

 ロシア軍がウクライナへ全面的な侵攻を開始し、多くの人が抱いた「不安」が現実のものとなってしまった。北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授(中央ユーラシア近代史・現代政治、比較帝国史)の宇山智彦さんは、今回の最大の問題はプーチン大統領がとらわれている一面的な歴史観にあるという。AERA2022年3月14日号の記事から。

【時系列にわかる「ウクライナを巡る動き」】

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 今回のウクライナへの侵攻は、プーチンの「一面的な歴史観」によって起こされたものです。

 プーチンは昨年7月発表の論文で、ロシア人とウクライナ人は「一つの民族」だと主張しました。これは、「ロシア人」は大ロシア人(現在のロシア人)、小ロシア人(ウクライナ人)、白ロシア人(ベラルーシ人)の3集団からなるという、ロシア帝国時代の考え方に基づいています。

 たしかに、ロシアとウクライナはともに、9世紀に現在のウクライナの首都キエフを中心にできた東スラブ民族による「キエフ・ルーシ」を一つの起源としています。しかしこれはそれぞれの歴史の一段階にすぎません。ロシアとウクライナの歴史には共通性と差異の両面があり、そこには、周辺のテュルク系遊牧民やフィン系の人々、ヨーロッパや西アジアの国々からそれぞれが受けた影響の違いも作用しています。特に、ウクライナの大部分が14世紀にリトアニア大公国の勢力下に入り、リトアニアがその後ポーランドと合併したことは重要です。ウクライナはポーランド文化、ラテン文化、カトリック文化の影響を受けました。しかしプーチンは西方の影響を異質なものとみなし、ウクライナ人はずっと「ロシア人」であり続けた、と主張しています。

AERA 2022年3月14日号より
AERA 2022年3月14日号より

 19世紀、ロシア帝国は「小ロシア人」としての地位を受け入れるウクライナ人は平等に扱う一方、独自性を主張する人々は弾圧しました。独自性の主張は、1917年のロシア革命期に大きなうねりとなり、短期間ですが独立国が形成されました。しかしプーチンはこの独立国を、外国の関与のもとでナショナリストが作った偽の国家と決めつけています。

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