さいたま地裁は請求を棄却した一方、「給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と付言した
さいたま地裁は請求を棄却した一方、「給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と付言した

 公立小学校教員が未払い残業代を求めた訴訟で、司法が勤務時間外の労働時間を仕分けた。現場の実態や価値観と合わないチグハグさが、大きな波紋を呼んでいる。AERA 2021年11月29日号の記事を紹介する。

【図】公立小学校教員・田中まさおさんの残業を裁判所が「仕分け」

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「翌日の授業準備は1コマ5分」「保護者対応はしません」──。もしそんな小学校教員が子どもの担任だったらどうだろうか。一方でその教員は「扇風機の清掃とビニール掛け」「エアコンスイッチ入り切りの記録」には時間を割いている。冗談に思われるかもしれないが、こんな教員が全国で増えても不思議でない状況が生まれているのだ。

 10月1日、全国の教員が固唾(かたず)をのんで見守った裁判の判決が出た。埼玉県の公立小学校教員の田中まさおさん(仮名・62)が、時間外労働に対して残業代が支払われないのは労働基準法違反だとして、県に未払い賃金の支払いと国家賠償を求めた裁判だ。教員の慢性的な長時間労働は残業代が発生しないことが元凶とし、歯止めをかける狙いだった。だが、さいたま地裁は訴えを退けた。

 公立学校教員の給与は、1971年に制定された教職員給与特措法(給特法)で規定されている。教員の仕事は裁量が大きく特殊だとして、月給の4%分の教職調整額を支給する代わりに、残業代を支払わない。ただし、制定にあたり長時間労働を招く懸念の声があったため、残業させられるのは、校外実習、学校行事、職員会議、非常災害の「超勤4項目」に限った。

「自発的行為」なのか

 ところが、田中さんは月平均約60時間の残業のうち、9割が4項目以外の業務だと主張。しかも、それらの業務は必要に迫られて行っているのに、教員が好きで勝手にやっている「自発的行為」と見なされ、賃金の対象外にされているのは「おかしい」と訴えているのだ。

 これに対して地裁は、田中さんが提出した残業の内容を「労働時間」か否かに仕分けし、時間数も計算。その結果、時間外の労働時間を認めたものの、未払いの残業代の支払いについては給特法が適用されるとして棄却。国家賠償についても、賠償に値するほどの時間量でないとして認めなかった。

 その仕分けの一部を抜粋した。これが公開されるや大きな波紋を呼んだ。とりわけ教員から困惑の声が多く上がったのが、「翌日の授業準備は1コマ5分」が相当とする判断だ。

 50代の女性教員は言う。

「小学校をなめているのかと思いました。例えば理科の実験授業があるときは、予備実験をします。児童は毎年違うため、同じ実験でもやり方を変えるのです。こうした地道な準備を通して、私たちは授業の質を保ちます。司法にこんなことを言われて、文部科学省や教育委員会は抗議しないのでしょうか?」

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