第43回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2021」で映画監督の今泉力哉(中央・左)らとともに最終審査員を務めた。自身の経験を語りながら丁寧に作品を講評し、後輩たちにエールを送る(撮影/倉田貴志)
第43回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2021」で映画監督の今泉力哉(中央・左)らとともに最終審査員を務めた。自身の経験を語りながら丁寧に作品を講評し、後輩たちにエールを送る(撮影/倉田貴志)

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 例えばお嬢様である華子が、実家の台所でジャムの瓶に指を突っ込んでなめるシーン。台本にはなく、現場で岨手に指示されたものだという。

「あれだけで華子のちょっと可愛らしいところ、子どもっぽいところもあるんだ、ということを見せる。華子は掴むのが難しい役でしたが、あの場面で『あ、近づけたかも』と思えた。とても立体的になるんですよね。岨手監督が演出すると」

 自主映画で下積みをし、「グッド・ストライプス」で待望の商業映画デビュー、というさなかに結婚&出産。4年前に「老後資金1500万とか(当時)言われる時代に、いつまでも目黒区になんか住んでいられないわけで」(本人のコラムから抜粋)と、さっさと金沢に移住し、映画業界でもまだまだ珍しい多拠点生活を実現している。

「あのこは貴族」の撮影時は、夫に分厚い「家事&育児マニュアル」を作って渡し、3カ月間東京でウィークリーマンション暮らしをした。その決断力、行動力はどうやら幼少期からブレていない。

 岨手は1983年、長野市で生まれた。2歳違いの兄と弟がいる。父・善久は病院勤めの外科医で、母・京子は元保健師。結婚後は専業主婦となった。岨手は小さいころから活発で自立心が強かった。「自分でこうと思ったらやりとげる子だった」と京子も証言する。

「4歳のころ『自転車の補助輪を外す』と言って朝5時にむくっと起き出して一人で公園に自転車を引っ張っていったんです。すぐに乗れるようになると2歳の弟を荷台に乗せて、知らないうちに遠くの友だちの家まで遊びに行っていました」

 近所でも「ゆきちゃんって、おもしろいね」と評判だった。のんびり気質の岨手一家のなかで、やや異質な存在。そのキャラクターは京子の母、能登に暮らすおばあちゃんに似ているらしい。

「おなかのなかにあることをパッと発言するところや、猪突(ちょとつ)猛進なところが似ていますね。2人とも同じいのしし年なんですよ」(京子)

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