マリに生まれ来日30年、国際化が進む日本で自らを手本に「多様な人生」を若者に示し続ける(撮影/楠本涼)
マリに生まれ来日30年、国際化が進む日本で自らを手本に「多様な人生」を若者に示し続ける(撮影/楠本涼)

 京都精華大学学長、ウスビ・サコ。2018年4月、日本で初めてアフリカ人の大学の学長が誕生した。マリ出身の京都精華大学のウスビ・サコである。高校卒業後に中国へ留学、1991年に日本へやってきた。京大の大学院で学び、01年には精華大学の専任講師に。サコは学長として、真の共生を学べる大学にしたいと願う。それはまた、サコの生き方そのものでもある。

【写真】学生の建築デッサンを講評するサコ

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 今年8月7日、京都市左京区の京都精華大学で、高校生を対象とするオープンキャンパスが開催された。コースの見学や学生による説明会とともに、大学学長を務めるウスビ・サコ(55)のトークイベントも実施される。

 2018年4月からアフリカ人として初めて、日本の大学の学長となったサコ。母語のバンバラ語の他、フランス語、中国語、英語、日本語を自在に操る。近年の日本社会で度々議論に上る「多様性」や「共生社会」の在り方について、関西弁で笑いをとりつつ体験的に語れることから、シンポジウムやメディアにも引っ張りだこである。

 サコは会場の大教室に着くと、あたりを見回し、最前列に座っているスカーフを頭につけた浅黒い肌の2人の少女に話しかけた。

「今日はどこから来たの?」

「……東京です」

 少し緊張した面持ちで、少女の1人が答える。

「そう、遠くからありがとう」

 サコが笑顔を向けると、少女もほほ笑んだ。教室には、彼女たちの他にも、外国にルーツを持つと思われる高校生や留学希望者たちの姿が幾人も見られた。京都精華大学は芸術やデザイン分野に強く、日本の大学で唯一「マンガ学部」を設置していることで知られる。近年は、世界的な日本のアニメブームを反映して、中国、韓国、台湾などのアジア圏を中心に多数の留学生が入学するようになった。現在は3662人の学生のうち約27%が留学生だ。サコは近い将来、その比率を4割まで伸ばすとともに、アフリカからの留学生を増やしたいと考えている。

「留学生に日本国内の学生も刺激を受け、4年間で大きく成長します。これからの日本はどんな仕事でも、外国人や異文化と接することが当たり前になる。そのとき、自分と違う文化や常識を持つ人びとがいることを認めることが大事なんです」

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