4万年前に滅びたネアンデルタール人の遺伝子が、新型コロナ重症化の要因になるという仮説が有力になった/ドイツ・ニーダーザクセン州の洞窟に置かれた人形(gettyimages)
4万年前に滅びたネアンデルタール人の遺伝子が、新型コロナ重症化の要因になるという仮説が有力になった/ドイツ・ニーダーザクセン州の洞窟に置かれた人形(gettyimages)
AERA 2020年11月16日号より
AERA 2020年11月16日号より

 現在の人類と一時は共存し、4万年前に絶滅したネアンデルタール人。私たちの体内にある彼らの遺伝子が、新型コロナの重症化と深く関わっていた。AERA 2020年11月16日号で掲載された記事を紹介。

【新型コロナ重症化遺伝子を引き継ぐ人の割合の多い国はこちら】

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 日本を含む東アジアでなぜ、新型コロナウイルスの死者数が少ないのか。この「ファクターX」をめぐる謎に有力な仮説が浮かんだ。私たちの祖先が約6万年前、当時共生していたネアンデルタール人との交雑で受け取った遺伝子が、重症化のリスク要因だというのだ。

 9月末にこの論文を英科学誌ネイチャーに発表したのは、独マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ進化遺伝学部門長らの研究グループだ。沖縄科学技術大学院大学教授も兼任するペーボ氏は、アエラの取材にこうコメントした。

「約4万年前に消滅した人類の絶滅形態が、今日の新たな感染症の流行の中で私たちに影響を与えていることは大変興味深いことです」

 ネアンデルタール人は約4万年前に絶滅した、現在のヒト(ホモ・サピエンス)に最も近い旧人で、共通の祖先から約55万年前に枝分かれした。ペーボ教授は2010年の論文で、アフリカ人を除く現代のヒトの遺伝情報の1~4%がネアンデルタール人に由来すると報告。約4万~6万年前にホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交雑し、その遺伝情報の一部が現在にまで受け継がれていることを明らかにした。

■遺伝子継ぐ割合と符合

 ヒトには23対、計46本の染色体があり、ここに全てのDNAが収まっている。これまでの研究で、新型コロナの患者約3千人を調べたデータから、重症化の遺伝的要因として23対のうち3番目の染色体が関与している可能性が指摘されていた。

 ペーボ教授らが今回この遺伝子領域を調べたところ、南欧で見つかった約5万年前のネアンデルタール人と類似していることが判明。さらなる解析で、この遺伝情報は約6万年前にネアンデルタール人との交配によって現代人の祖先に渡ったことも明らかになった。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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