8月の研究報告では、重症化する比率の違いに「生活習慣の違いや医療格差といった環境因子が深く関与しているのではないか」との見方も示した。背景には、米国でアフリカ系の人たちに最も深刻な新型コロナのダメージがあるとのデータが、一部で人種差別問題と重ねて捉えられていたことがあった。

「早期に病院で最新治療を施してもらえるか、診察さえ受けられないか、という医療格差によって重症化リスクが大きく分かれるのは当然です。米国に住むアフリカ系の人たちの多くが重症化するのは、遺伝的要因より環境因子に由来すると考えるのが妥当でしょう」(飯村教授)

 たしかにペーボ教授らの研究結果でも、アフリカでネアンデルタール人の遺伝情報はほとんど確認されていない。

 ペーボ教授はアエラの取材に「(重症化における)一番の危険因子は年齢ですが、その次にくるのがおそらくこれ(ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子)だと考えられます。もし両親のどちらかから受け継いだ場合、感染によって重症化するリスクは年齢が10歳上であるのと同等に。両親の両方から受け継いだ場合には20歳上であるのと同等にまでなると考えられます」とコメントした。

■高まる新薬開発の期待

 研究者が遺伝子レベルで病気の原因を探るのは、特定の遺伝子やその遺伝子が作るたんぱく質の情報が関与しているのを突き止めることで、そのたんぱく質に結合する分子や抗体から治療薬を開発するゲノム創薬につながるからだ。

 ファクターXの候補としてはBCGワクチン接種の影響なども挙がっている。決め手はいつ見つかるのか。

「ネアンデルタール人の遺伝情報もBCGも、重症化や死亡率との相関関係から類推している段階です。治療薬の開発につなげるには、そこから掘り下げて体内でどう作用しているのか生体科学的に解明していく必要があります」(飯村教授)

 ネアンデルタール人由来の遺伝子領域が、なぜ重症化リスクと関連しているかについてもわかっていないのが実情だ。また遺伝子から作られるたんぱく質の量は「生活環境や食べ物によって変わる」(同)といい、後天的要素も無視できない。

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